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【新薬】トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)
HER2陽性乳癌を治療する抗体薬物複合体に新たな選択肢

2020/06/26
北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)

 2020年5月25日、抗悪性腫瘍薬トラスツズマブ デルクステカン(商品名エンハーツ点滴静注用100mg)が発売された。本薬は、3月25日に製造販売が承認され、5月20日に薬価収載されていた。適応は「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」、用法用量は「成人、1回5.4mg/kgを90分かけて3週間間隔で点滴静注。なお、初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮可」となっている。

 女性の部位別罹患率が最も高い乳癌では、早期発見・治療がその後の生存率を大きく左右する。乳癌患者の約20%で過剰発現していると言われているヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)は、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)ファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼで、細胞の増殖・分化などを調節すると考えられており、HER2陽性乳癌の予後不良や再発率の高さに関連していることが知られている。

 HER2の機能を抑制する標準的な治療として、HER2阻害薬のラパチニブ(タイケルブ)、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体のトラスツズマブ(ハーセプチン)やペルツズマブ(パージェタ)、抗体薬物複合体(ADC)のトラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)などが臨床使用されている。これらの分子標的薬により、乳癌患者の無増悪生存期間や全生存期間が改善されている一方で、薬物治療に対して抵抗性や耐性を獲得して増悪してしまうことも多い。したがって、標準的な治療後に増悪した場合の新たな治療法の開発が望まれている。

 トラスツズマブ デルクステカンは、既存のトラスツズマブ エムタンシンと同じADCに属する薬剤で、HER2に対するヒト化モノクローナル抗体とトポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するカンプトテシン誘導体(デルクステカン)をリンカーを介して結合させている。薬物抗体比(drug-to-antibody ratio;DAR)は約8である。トラスツズマブ デルクステカンは、腫瘍細胞の細胞膜上に発現するHER2に結合して細胞内に取り込まれた後、リンカーが加水分解され、遊離したカンプトテシン誘導体がDNA傷害作用およびアポトーシス誘導作用を示すことなどにより、腫瘍増殖抑制作用を発揮すると考えられている。

 トラスツズマブ エムタンシンによる治療歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳癌患者を対象とした国際共同第2相試験において有効性(奏効率)と安全性が確認された。海外においては、2020年5月現在、米国で販売されている。日本では、2019年12月に条件付き早期承認制度の適用対象となっていた。

 副作用は、悪心(76.1%)、疲労(54.3%)、脱毛症(46.2%)、嘔吐(42.4%)などであり、重大な副作用として、好中球減少(29.9%)、貧血(21.7%)、白血球減少(19.6%)などの骨髄抑制(45.1%)、間質性肺疾患(8.2%)、Infusion reaction(3.3%)が認められている。特に間質性肺疾患に関しては、死亡に至った例も報告されているので、呼吸器疾患に精通した医師と連携して使用するなど注意が必要である(添付文書の警告欄を参照)。

 また、下記の事項が承認条件となっていることに留意する。

・化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳癌患者を対象に実施中の第3相試験における本剤の有効性および安全性について、医療現場に適切に情報提供する。
・治験症例が限られていることから、有効性および安全性に関するデータ収集のために、全症例を対象に使用成績調査を実施する。

 なお、本薬は2020年5月にHER2陽性胃癌の適応追加を申請している。

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