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【新薬】グルカゴン点鼻粉末(バクスミー)
低血糖の救急処置に初のグルカゴン点鼻薬が登場

2020/04/24
北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)

 2020年3月25日、低血糖時救急治療薬グルカゴン(商品名バクスミー点鼻粉末剤3mg)の製造販売が承認された。適応は「低血糖時の救急処置」、用法用量は「1回3mgを鼻腔内に投与」となっている。

 インスリンなどの糖尿病治療薬による副作用として低血糖症状の頻度が高いことが認められている。血糖値が異常に低くなると冷や汗などの自律神経症状や、頭痛やめまいなどの中枢神経症状が現れるが、ブドウ糖の投与(摂取)など適切な治療によって症状の改善が見込まれる。しかし、急激に血糖値が低下した場合や、徐々に血糖値が低下する場合や低血糖を繰り返す場合などでは自覚症状が現れにくく、自力で対処できない場合、大脳機能低下による意識障害を引き起こす重症低血糖に陥ることがある。重症低血糖は回復に他者の援助を必要とし、深刻な後遺症を残すほか、死に至る症例も報告されている。

 インスリン自己注射などの糖尿病治療による低血糖には、医療機関外で患者およびその看護者(家族など)が緊急で対処できるようにグルカゴン注射剤が処方される。グルカゴンは29個のアミノ酸からなるポリペプチドホルモンであり、肝臓のグルカゴン受容体を活性化することで、グリコーゲンの分解および肝臓からのグルコースの放出が刺激され、血糖値が上昇する。しかし、既存の注射剤では、使用時の調整や手順が複雑で、患者およびその看護者への負担が大きいのが現状であった。

 バクスミーは、グルカゴン粉末を点鼻容器に充填した経鼻投与用製剤で、投与時にそのまま使用できる単回使用、使い捨ての外用製剤である。使用する場合は、点鼻容器の先端を患者の鼻腔に挿入してピストンを押すと、グルカゴン粉末が鼻腔に放出され、鼻腔粘膜からグルカゴンが受動的に吸収される。投与後に吸収や深呼吸の必要がなく、重症低血糖で意識がない患者に対しても薬物送達できるといった特徴を有している。

 成人1型および2型糖尿病患者を対象とした国内第3相2剤2期クロスオーバー試験、小児1型糖尿病患者を対象とした外国第3相部分的クロスオーバー試験において、本薬の有効性(グルカゴン注射剤との非劣性)と安全性が検証された。海外では、2019年12月時点で、米国と欧州で承認されている。

 薬剤投与による副作用は、悪心、嘔吐、頭痛(各10%以上)、流涙増加、眼そう痒症、収縮期血圧上昇、拡張期血圧上昇、上気道刺激症状(各1~10%未満)などが認められており、重大な副作用としてはショック、アナフィラキシーを生じる可能性がある。

 薬剤使用に際しては、下記の事項について十分留意しておかなければならない。

・グルカゴンの血糖上昇作用は主として肝グリコーゲンの分解によるので、飢餓状態、副腎機能低下症、頻発する低血糖、一部糖原病、肝硬変などの場合は血糖上昇効果がほとんど期待できない。また、アルコール性低血糖の場合は血糖上昇効果がみられない。
・患者および看護者が対処できるように、投与方法および保管方法について十分指導し、低血糖に関する注意についても十分徹底する。
・本薬投与でも意識レベルの低下などの低血糖症状が改善しない場合には、本薬の繰り返し投与は行わず、直ちにブドウ糖などを静注するなど適切な処置を行う。なお、回復した場合でも糖質投与を行うことが望ましい。
・本薬投与で意識レベルが一時回復しても、低血糖の再発や遷延により、めまいや意識障害などを起こす可能性があるので、高所作業、自動車運転などの危険を伴う機械を操作する際には注意させる。

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