2018年11月20日、遺伝性血管性浮腫治療薬イカチバント(商品名フィラジル皮下注30mgシリンジ)が薬価収載と同時に発売された。本薬は、9月21日に製造販売が承認されていた。適応は「遺伝性血管性浮腫の急性発作」、用法用量は「1回30mgを腹部に皮下注。効果不十分な場合又は症状が再発した場合は、6時間以上の間隔をおいて1回30mgを追加投与。ただし、24時間あたりの投与回数は3回まで」となっている。

 遺伝性血管性浮腫HAE)は、補体成分C1rおよびC1s、血液凝固・線溶系、カリクレイン系に対して広範な阻止作用を有するインヒビターであるC1エステラーゼインヒビター(C1-INH)が欠損したり機能低下することにより、顔面、口唇、手足、上気道、消化器など様々な部位に急性の浮腫が生じる常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。浮腫を引き起こす主要なメディエーターは、C1-INHの欠損・機能異常のために過剰濃度となったブラジキニン。過剰なブラジキニンがブラジキニンB2受容体と結合して血管拡張や血管透過性亢進を引き起こすことで、血管性浮腫が生じると考えられる。有病率は5万人に1人とされ、日本の患者数は約2500人と推定されるが、既治療患者は400人強である。

 HAEの急性症状は2〜5日程度で軽快する。ただし、慢性的に発症を繰り返すことで、身動きが取れなくなるほどの激しい腹痛や顔面浮腫を生じたり、上気道(咽頭)の激しい浮腫によって致死的な呼吸困難や窒息を引き起こす危険性もある。このため、発作後は早期の治療が必要となる。

 国内のガイドラインでは、HAEの治療薬としては唯一適応を有するC1-INH静注製剤(ベリナートP)の使用が推奨されている。ただし、C1-INH製剤は有効性が高いものの、ヒト血漿分画製剤のため感染症伝播のリスクが完全には否定できない。トラネキサム酸(トランサミン他)、ダナゾール(ボンゾール)の使用も考慮するが、急性発作時については適応外であり、安全性や有効性上の問題も指摘されている。

 イカチバントは、5つのタンパク非構成アミノ酸を含む合成デカペプチドであり、ブラジキニンB2受容体に対して、ブラジキニンと同程度の親和性で選択的かつ競合的に拮抗する。これにより、ブラジキニンB2受容体を介するブラジキニンの作用を阻害して浮腫の肥大化を低減する、選択的ブラジキニンB2受容体拮抗薬である。18歳以上のHAE患者を対象とした第3相臨床試験(海外臨床試験[HGT-FIR-054試験]、国内臨床試験[SHP-FIR-301試験])では、本薬の有効性と安全性が確認された。

 既存のC1-INH製剤が静注製剤であるのに対して、本薬は自己注射も可能な皮下注製剤であることから、患者の負担軽減・QOL向上の観点からも有用な薬剤として期待されている。海外では、2008年7月にEUで承認されて以降、米国など世界45カ国(2018年6月現在)で承認されている。日本では、2014年6月に希少疾病医薬品に指定されていた。

 国内外の臨床試験から副作用が87.5〜97.3%に認められている。主なものは内出血などの注射部位反応(96.7%)などであり、重大な副作用としてはアナフィラキシーなどの重篤な過敏症を生じる可能性があることに十分注意する。