2018年7月2日、抗悪性腫瘍薬オラパリブ(商品名リムパーザ錠100mg、同錠150mg)が乳癌の適応追加が承認された。追加された適応は「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」、用法用量は「1回300mgを1日2回投与。患者の状態により適宜減量」。なお、オラパリブは、2018年4月より「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」で臨床使用されている。

 世界的に女性の部位別罹患患者数が多い乳癌の治療では、外科的手術以外に薬物療法として、これまでの細胞障害性抗癌剤のほか、アロマターゼ阻害薬レトロゾール(フェマーラ他)などの内分泌療法薬や哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mammalian target of rapamycin : mTOR)阻害薬エベロリムス(アフィニトール)の分子標的薬が用いられている。このうち、乳癌にプロゲステロン受容体(PR)、エストロゲン受容体(ER)が発現する可能性があり、内分泌療法薬が治療の中心的薬剤に位置づけられている。

 また、乳癌のうち約20%は、悪性度が高い上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)ファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼであるヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陽性とされている。このHER2陽性の乳癌では、近年、HER2の機能を抑制するトラスツズマブ(ハーセプチン他)などのヒト化HER2モノクローナル抗体、ラパチニブ(タイケルブ)のチロシンキナーゼ阻害薬などの、いわゆる抗HER2療法が用いられるようになり治療効果が向上してきている。

 従来からHER2陰性症例では既存の内分泌療法が中心となっていたが、2017年12月よりサイクリン依存性キナーゼ(Cyclin Dependent Kinase:CDK)4および6に対して高い選択性を有するCDK4/6阻害薬パルボシクリブ(イブランス)が内分泌療法薬との併用で高い治療効果を示した。しかし、一方で転移性乳癌の中には3つの受容体(PR、ER、HER2)に対して全て陰性である症例も存在し、別の要因により癌の増殖を促進すると考えられており、現時点では治療選択肢が限られていた。

 こうした要因の1つに遺伝的要因があり、乳癌や卵巣癌の5〜10%に存在することが明らかになってきた。BRCA1あるいはBRCA2の遺伝子変異はその1つで、これらの変異遺伝子陽性者は乳癌の生涯発症リスクが高いことが報告された。BRCAは、損傷したDNAの修復に関わるタンパク質を生成するヒト遺伝子であり、細胞内遺伝子の安定性維持に重要な役割を果たしている。

 オラパリブは、DNA一本鎖切断修復の主要酵素であるポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)を選択的に阻害する経口の分子標的薬(PARP阻害薬)である。作用は、DNAに二本鎖切断修復機構である相同組換え修復が機能していない癌細胞に選択的に作用し、細胞死に導く。具体的にはBRCA遺伝子変異によりDNA損傷応答(DDR)経路に異常を来した癌細胞に特異的に作用し、細胞死を誘導する。

 がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌患者を対象とした国際共同第3相試験(OlympiAD試験)において、本薬の有効性と安全性が確認されている。

 乳癌における臨床試験で副作用が86.3%認められている。主な副作用は悪心(50.2%)、貧血(32.2%)、疲労(22.4%)などであり、重大なものとして骨髄抑制(貧血、好中球減少、白血球減少、血小板減少、リンパ球減少など)、間質性肺疾患が見られる可能性があるため注意する。