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第17回 未来の医療を見に行く(その9)
体全体を巧みに“管理”する複雑系医療とは?

2014/01/29

 ゲノミクスと同じく、プロテオミクスでタンパク質から有益な情報を得られるようになるまでに、なお多くの解読がなされなければならない。現時点では、血液中のタンパク質のパターンが何を意味しているかも、それらが互いとどのように関連しあっているかも、わからない。おそらく遺伝子のように、何か一つの特徴が重大な意味を持つこともあるのだろう。

 しかしタンパク質のパターンと組み合わせは、遺伝子よりはるかに多くの情報を秘めていそうだ。現在のプロテオミクスは、遺伝研究にたとえれば、まだメンデルやダーウィンの段階にあり、人体と健康にまつわる究極の謎を解明しようと、実験を繰り返し、しきりにメモを取っているところだと言えるかもしれない。ただ、私たちの環境は、ヨーロッパの片隅で孤軍奮闘していたダーウィンやメンデルとは違う。これを書いている今、USCの私のラボは、スタンフォード大学、カリフォルニア工科大学、サンタフェ研究所、ワシントン大学、アリゾナ州立大学、フェニックスのトランスレーショナル・ゲノミクス・リサーチ・インスティテュート、ニューヨークのコールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、アプライド・プロテオミクス社と協力して研究を進めている。

 今後10年から20年のうちに、1滴の血液があれば、医師は患者の体の中で発生しつつある病気(初期のがんでさえ)を検知できるようになるかもしれない。また1滴の血液から、将来発症の恐れのある遺伝性疾患や、その人の遺伝構造と生理機能に合う薬も、わかるようになるだろう。血液製剤を開発し、早期に介入できるようにもなるはずだ。

 いずれカルテには、その人のゲノムの配列(少なくともその一部)が記入され、定期的な血液検査では、さまざまな疾病や遺伝的素因を調べるために、何千もの計測がなされるようになるだろう。医学の役割は、治療から、科学的予測に基づく予防へとシフトする。すべてを可能にするのは、生物学、コンピューター処理、工学、物理学を取り込んだ複雑な医学である。その目的は、遺伝子や、タンパク質をはじめとする重要な分子の相互作用をひも解き、「体全体」の活動を理解するところにある。

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著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
『ジエンド・オブ・イルネス 病気にならない生き方』好評販売中

米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

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