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第14回 未来の医療を見に行く(その6)
実験動物に効く抗がん剤が、なぜ人に効かないのか?

2013/12/25

 医学界は、否定的な報告がお得意だ。たとえば、私が患者にある薬を処方し、深刻な副作用が現れた際には、FDAに報告しなければならない。しかし、望ましい結果が出ても、報告の義務はない! 私たちは、失敗からだけでなく、成功からも学べるはずだ。多くの病気の斬新な治療法と結果のデータを私たちは渇望している。

 前回お話ししたツール・ド・フランスの覇者、ランス・アームストロングの経験からは、さらに二つの教訓が得られる。一つは、がんの初期の兆候を彼が見逃していたことだ。がんに関しては、予防と早期発見が鍵であり、ランスがもっと早い時期に気づいていれば、がんと戦わずにすんだのかもしれない。もう一つは、彼が医師たちの一般的な認識を受け入れようとせず、自分を守るために立ち上がり、自分に合ったアプローチを(破れかぶれではあっても)見つけたことだ。それが、彼の生命を救ったのである。

 がん治療の分野は白黒がつけにくい。もしあなたのがんの直径が4センチなら、4カ月後には回復するが、6センチなら、がんは薬に耐性を持っており、この先、事態は悪くなる一方だ。しかし、何ら治療をしなければ、がんは直径12センチにまで成長するかもしれない。

 耐性がんに関する研究のほとんどは、このようなあいまいな基準を用いており、それが結果をわかりにくくしている。真の「耐性」とは何かを定義することさえできないのだ。医学の世界では、常にイエスかノーかが問われるが、がん治療に関しては、必要なデータがそろっていないため、おおかたはグレーの答えしか出せない。できるのは、「以前」と「以後」を見比べることだけだ。そして残念ながら、唯一、成功と見なされるのは、腫瘍が小さくなることであり、成長速度が落ちても、通常、成功とは見なされない。しかし、私はそれを成功と見なすべきだと考えている。結局、それによって患者の寿命は延びるからだ。

 わかりやすい例を挙げよう。2003年、ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)は、肺がんの増殖を阻害することがわかっていたが、臨床試験が第3段階まで来たときに問題が発生した。投薬された患者の症状は改善したが、腫瘍は小さくなっていなかったのだ。その試験がプラセボグループなしで行われたせいもあって、ゲフィチニブの評判は傷ついた。幸い、翌年、同様の薬、エルロチニブ(商品名「タルセバ」)について、プラセボグループを置いた試験が行われ、腫瘍が小さくならなくても、ほとんどの肺がん患者の延命に役立つことが明らかになった。プラセボグループの患者のほうがかなり早く亡くなったからだ。この種の研究がプラセボグループの犠牲なしに行われるとよいのだが。

 人体の複雑さを示すもう一つの例を挙げよう。私が乳がんの女性に、パクリタキセル(商品名「タキソール」)を3週間ごとに投与したとすると40パーセントは著しい反応を示すだろう。すなわち、腫瘍が50パーセント縮小する。その後、がんは勢いを取り戻し、毎週、異なる量のパクリタキセルを投与することになる。30パーセントは好反応を示すだろう。その後、がんは再びぶり返し、私は持続点滴によって96時間以上、パクリタキセルを投与し続け、患者の20から30パーセントが好反応を示すだろう。

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著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
『ジエンド・オブ・イルネス 病気にならない生き方』好評販売中

米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

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