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第12回 未来の自分を見にいく(その4)
病気になるのは遺伝?それとも環境?

2013/12/11

 下のグラフは、さまざまな疾患や障害に、遺伝要因環境要因がそれぞれどのくらい影響するかを示したものだ。こうやって数字の形でそれを見るのは実に刺激的で、日々の生活が、人生や健康にどれほど影響するかがうかがえる。中には、遺伝に大きく影響されるものもあるが、環境も、直接的にあるいは間接的にリスクに影響していることを覚えておいてほしい。

図表◎疾患別に見た環境要因と遺伝要因

 環境は、食事や運動から汚染物質、ストレスに至るまで、重なり合う要因を伴っており、最終的には良くも悪くもあなたが受け継いだ遺伝子に影響を与え得る。グラフで「遺伝」と記したのは、遺伝的に受け継いだリスク要因であり、その疾患の原因遺伝子というわけではない。つまり、たとえば、肥満について言えば、33パーセントは環境要因で、67パーセントはリスクを増やす可能性のあるSNPsだが、それ自体が肥満を引き起こすわけではないのだ。遺伝子プロファイルによって肥満になるリスクが高いとわかっても、それがあなたの運命だというわけではない。環境面をコントロールすれば、生涯リスクを大幅に減らすことができる。

 この区別は重要である。なぜなら、先に述べたように、DNAと健康の話になると、あまりにも多くの人が運命論者的な見方をしてしまうからだ。環境の違いがすべてを決める場合もある。その「環境」には、文字通りの環境だけでなく、細胞レベルでの環境も含まれ、その微細な環境は、薬の効き方や、治療に対する反応に影響を及ぼす。

 遺伝子を変えることはできないが、遺伝子に影響する環境を変えることはできる。そのことを理解していただくために、私が「卵の概念」と呼ぶものをご紹介しよう。がん研究者で、生物学分野の最も偉大な思想家の1人である、ジョンズ・ホプキンス大学のドン・コフィー博士から教わったものだ。

 卵を室温で数週間放置したらどうなるだろう。卵は腐る。しかし同じ卵を37.5℃の環境において、日に3回、回転させれば、結果はまったく違ってくる。チュンチュンと鳴くひよこが生まれるのだ。(注=どういうわけか、回転は奇数回でなくてはならない。ちなみに「百年卵」と呼ばれるピータンは、泥と灰と塩と石灰ともみ殻を混ぜたものの中に数週間から数カ月漬け込んで作る。特定の成分に触れることで卵がピータンになることは、環境こそが一番大切だという主張を裏づけている)

 この簡単な実験は、環境の微妙な違いが重大な影響を及ぼすことを示している。重力と気温のわずかな違いによって、一方の卵は混沌とした末期を迎え、もう一方の卵には秩序が生まれたのだ。同様に、私たちの身体システムのわずかな変化が、全身に劇的な影響を及ぼすことがある。しかし、私たちは往々にしてそのような変化を見逃しがちだ。

 子宮環境が胎児(成長過程にある受精卵)に及ぼす影響は、それを如実に表している。この数十年間に行われた、胎児期に関する研究の多くは、その傷つきやすい時期に生涯の健康と病気の土台が築かれることを示唆する。今では、妊娠中の母親が太りすぎていると、子どもの糖尿病のリスクが増すこと、アルコールをよく飲むと、子どもの障害が誘発され得ること、子どもが低体重で生まれると、心血管疾患になるリスクが高くなることがわかっている。最近の研究では、妊娠と妊娠の「間」の子宮内環境さえ、胎児に影響することが明らかになった。

 2011年初頭、コロンビア大学の研究者は、第1子の誕生から12カ月以内に宿された第2子は、自閉症になるリスクが3倍以上高くなることを発見した。さらに、第1子の誕生後、12カ月から23カ月の間に宿された第2子さえ、3年後に宿された第2子に比べると、そのリスクは2倍高かった。栄養不足のせいなのか、生化学的な違いのせいなのかはわからないが、子宮内で次の妊娠に影響を及ぼす何かが起きているのだ。過去の研究でも、妊娠と妊娠の間隔の短さと、統合失調症などの精神疾患との関連が示されている。

 自閉症には遺伝と環境の数多くの要因が絡んでいるはずだが、この発見は、環境が遺伝子とは無関係に、多くの親を悲しませる結果をもたらすことを語っている。世界保健機関(WHO)は、健康な赤ちゃんを産むには、出産から次の妊娠まで24カ月空けることを推奨しているが、世界の多くの地域で、このアドバイスはほとんど無視されている。

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著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
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米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

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