日経メディカルのロゴ画像

第10回 未来の自分を見にいく(その2)
「すべてわかる」は幻想、遺伝子検査の可能性と限界

2013/11/27

 遺伝子検査は、あなたが年を取って体の機能が衰え始めたときに、何に注意すればいいかを教えてくれる。それは健康診断ではないので、あなたが狼瘡だとか、がんだとか、告げたりはしない。一般的な病気について遺伝的素因の有無を示し、予防策や早期の診断を促すものなのだ。

 あなたが受け継いだリスクの高さは、あなたが持っているリスクマーカーの数(ゼロか、一つか、二つか)に、ある程度、比例する。リスクマーカーが一つか二つあっても、病気になるわけではないが、生活習慣や環境のリスク要因がある場合、マーカーを持つ人が病気になりやすいのは確かだ。多くの点で、これは医学で用いられるほかの検査に似ている。たとえば、血液検査でコレステロール値の上昇が見つかると、心血管疾患になるリスクが高い、と診断されるようなものだ。

 ある病気のマーカーになるSNPs(スニップス、遺伝子配列の変異)を特定するのは、理論上は簡単である。その病気の患者、数千人のDNAと、その病気にかかっていない数千人のDNAを比べて、前者にきわだって多く見られる変異(SNPs)を特定するのだ。これらのSNPsは、病気の直接的な原因ではないかもしれないが、その病気のリスクを高める遺伝子の一部か、その遺伝子の近くにあると考えられる。ある病気のマーカーを持っていなくても、病気にならないとは言い切れないが、マーカーを持つ人に比べると、罹患するリスクは低い。

 以下の項目について、現在、リスク・プロファイルのための遺伝子テストが行われている。

 がん …… 乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、胃がん、メラノーマ(悪性黒色腫)
 免疫 …… グレーブス病(バセドウ病)、狼瘡、乾癬、関節リウマチ
 血管 …… 腹部大動脈瘤、胸部大動脈瘤、脳動脈瘤、深部静脈血栓症
 視覚 …… 黄斑変性、緑内障
 神経 …… アルツハイマー病、多発性硬化症、むずむず脚症候群
 心臓 …… 心房細動、心臓発作
 胃腸 …… クローン病、セリアック病
 内分泌腺 …… 2型糖尿病、肥満
 関節 …… 変形性関節症
 その他 …… サルコイドーシス、ヘモクロマトーシス(血色素沈着症)
 薬理遺伝学 …… 薬の効き目や副作用

 これらの健康状態には、多くの遺伝的、環境的要因が絡んでおり、中にはまだ知られていない要因もあることに留意しよう。現在では、動脈瘤から多発性硬化症、がんに至るまで、およそ40の病気について遺伝的なリスク要因を調べられるようになった。それも、唾液を採取するだけで、必要なデータをすべて得ることができる。唾液には増幅検査をするのに十分なDNAが含まれるので、血液を採る必要はない。もっとも、BRCA遺伝子の変異(乳がんと卵巣がんのリスクが高くなる)などのように、血液検査が必要とされるものもある。遺伝子検査は毛髪、皮膚、羊水でも行うことができる。今日ではほとんどの妊婦が、赤ちゃんの遺伝的疾病や障害に対する脆弱性を調べる遺伝子検査や、遺伝カウンセリングを勧められる。

  • 1
  • 2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
『ジエンド・オブ・イルネス 病気にならない生き方』好評販売中

米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

この記事を読んでいる人におすすめ