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第8回 炎症は病気のシグナル(その4)
インフルエンザが、後々までトラブルをもたらすわけ

2013/11/13
デイビッド・B・エイガス氏

 私たちのほとんどはフットボール選手ではないし、修道女のように暮らしているわけでもない。多くの修道女が健康で長生きできるのは、規則正しくつつましい暮らしぶりのおかげだろう。ローマカトリック教会の修道女は、ほかのどんな職業の人より長生きし、平均で86歳まで生きる。私たちは彼女らとは異なる環境のもと、異なるユニフォームを着て仕事に励む。しかし、どんな仕事に就いていようとも、ある種の炎症は生活に侵入してくる。風邪やインフルエンザで苦しい思いをするのは、体が病原菌を殺して「常態」に戻ろうとして、炎症と戦っている証しなのだ。

 執拗な風邪やインフルエンザにかかったときに覚える不快感の多くは、免疫システムの過剰反応がもたらすものだ。免疫システムは見たこともない侵入者(風邪の場合はウイルス)に出くわすと、過剰に反応する傾向がある。ゆえに、ワクチンが有効となる。ワクチンによって、免疫システムは侵入者と面識ができるので、ウイルスが実際に襲ってきても、あわてず冷静に立ち向かうことができるのだ。私たちの体はあるウイルスにさらされると、それを殺す方法を学び、免疫システムにその方法を「記憶」させる。そのおかげで私たちは同じウイルスに何度も苦しめられることはない。たとえば、同じ風邪に2度かかったり、同じインフルエンザウイルスに2度襲われたりすることは極めてまれなのだ。

 2009年に豚インフルエンザが世界的に流行した際、最も無防備だったのは、免疫システムが不慣れだったり、緩くなっていたりする人々だった。たとえば、インフルエンザをまだ経験していない幼児や、妊婦(胎児を免疫システムが攻撃するのを防ぐために、免疫機能が下がっている)などである。年配の世代は、過去に豚インフルエンザに似たウイルスを克服したことによる防護効果が、多少なりとも残っている。もっとも、他の病気を抱えた年配の人は免疫力が落ちているので感染しやすい。インフルエンザとの戦いを勝ち抜いた人は、そのインフルエンザウイルスに対して生涯続く免疫を獲得するが、その戦いの過程で多くの炎症を経験したことが、永続的な負の影響を及ぼすことがある。

 インフルエンザは多くの炎症をもたらすばかりか、その過程で有害な痕跡を残す。それは物理的な痕跡ではなく、不気味な影のようなものだ。インフルエンザに伴う長期的で激しい炎症にさらされると、嵐に巻き込まれたかのように、体のシステムは相当なダメージを被る。その嵐ではサイトカインという化学物質が吹き荒れ、血管を老化させる。つかの間の嵐でも、その影響は長期間にわたって私たちを苦しめるのだ。

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著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
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米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

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