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第2回 なぜ、我々はがんに勝てないのか?(その2)
遺伝学者J・B・Sホールデンが90年前に語った真実

2013/10/02
デイビッド・B・エイガス氏

 ホールデンは、自らの考えを述べるなかで、細菌説に関して、驚くべき予言をした。「それは、医学にとって災いである。なぜなら、私たちは細菌にばかり関心を寄せるようになり、体のシステムを忘れようとしているからだ」。今からおよそ90年も前に、彼は真実を述べたのだった。社会も人々も、健康を害する「犯人」捜しに明け暮れるうちに、すべての病気は外からやってくると思い込むようになった。しかしそれは、細菌とは無関係の、私たちの内側の世界だけに関わる病気については、完全な間違いだった。

 細菌説は、がんなどの治療にとっては災厄となった。なぜなら、科学者も一般の人々も、がんなどの病気を感染症のように見なし始めたからだ。その考え方は根づき、それに沿った治療方法が確立され、今日まで続いている。

 病院を訪れた患者は、診断を受け、カテゴリに分類され(たとえば、糖尿病か、セリアック病か、というように)、その後、その病気に効き目があるとされている治療を受ける(たとえば、インスリンによる制御か、グルテンの回避か、というように)。がんの場合、医師はそれを侵入者と見なし、それを切り取るか、壊そうとする。具体的にどうするかは、がんのある部位によって決まる。

 しかし、がんは、感染症のような単純な病気ではない。感染症の場合、診断と分類が重要となる。なぜなら、感染症はウイルスや細菌が原因であるため、侵入者が何者であり、どのように殺せばよいかがわかれば、私たちは勝利を収めることができるからだ。侵入者を測る物差しさえあればいいのだ。しかし、がんなどの病気では、たとえば病気に冒されている細胞、それが関係する臓器、近くにあるほかの臓器、体全体など、複数の物差しを用意しなくてはならない。もはや、1対1の戦いではなく、また、単一の武器で対処できる戦いでもないのだ。それは泥沼化した戦争のようなもので、小規模な衝突も起きれば、国境をまたがる大きな戦闘も起きる。(次回に続く)

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著者プロフィール

デイビッド・B・エイガス氏 米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌予防法の開発に取り組む。アップル創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の担当医も務めた。

連載の紹介

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」
なぜ人類は、癌に打ち勝つことができないのか? 気鋭の癌研究者がまったく新しいアプローチで病気や健康の真実に迫り、米国で50万部のベストセラーになった『ジエンド・オブ・イルネス:病気にならない生き方』(日経BP)が、このほど出版されました。本コラムでは、その一部を抜粋して紹介します。
『ジエンド・オブ・イルネス 病気にならない生き方』好評販売中

米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授で、プロテオミクスとゲノミクスを応用した癌の予防法の開発に取り組む著者が、健康に生きるにはどうすればよいか、その秘訣をアドバイスします。(デイビッド・B・エイガス著、野中香方子訳、日経BP社、2100円税込)

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