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鉄祐会理事長の武藤真祐氏に聞く
ウィズコロナ時代に在宅医療はどのように変わっていくか

2020/08/26
聞き手:山崎大作=日経メディカル

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、医療機関もこれまでと異なる形での医療提供を求められている。在宅医療はCOVID-19でどのような影響を受けているのか、また、データやデジタル技術を活用して業務を変革する、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」によってサービスの姿を変えるのか。

 都内および宮城県石巻市で複数の在宅クリニックを運営すると同時に、遠隔診療やePRO(electric Patient Reported Outcome)のツールを提供するインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐氏に話を聞いた。

むとうしんすけ氏◎1996年東京大学医学部卒、同大医学系研究科博士課程修了。INSEAD Executive MBA。東大病院、三井記念病院、McKinsey & Companyを経て、2010年祐ホームクリニックを設立。その後、シンガポールに「Tetsuyu Home Care」を設立した他、インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長も務める。


──在宅医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)のあり方について、どのように考えていけばよいでしょうか。

武藤 実はCOVID-19のまん延に伴い、我々の感覚では在宅医療を受ける患者は増えている。病院が外来や入院を制限しており、医療を提供する能力が落ちている。さらに患者も医療機関でのCOVID-19感染を恐れて受診を嫌がる傾向にある。その中で在宅医療やオンライン診療のニーズが少し上がっているということだろう。

 また、病院では感染を避けるためにお見舞いに行けなくなっている問題もある。これは大きな問題で、ターミナルの方だと入院すると家族が次に会うのは亡くなった後になってしまう。「それならもう頑張って自宅でみていきたい」という家族側の希望があることも、在宅を希望する患者が増えている背景にあるのではないか。

──在宅医療であれば、COVID-19のまん延下でもこれまでの形で診ていくことができるということでしょうか。

武藤 やはりITが有用だ。大きく分けて、オンライン診療と医療機関間の地域連携で用いる。

 在宅医療のニーズは、今後も一定程度は増えていくと思っている。特に病状が落ち着いた方では、オンライン診療のニーズが高い。いくら在宅医療とはいっても、患者はなるべく感染のリスクを下げたい。もともと在宅医療で扱うような患者は高齢者で基礎疾患が多い、COVID-19での高リスク者のことが多いからだ。医療者にとっても、発熱した在宅患者にどんどん呼ばれるのはリスクがある。かといって、町中でガウンを着たり、フェイスシールドをしながら出かけていくのは大変だ。明らかにCOVID-19が疑われない通常の感染症だったり、単なる脱水症による発熱ならば、遠隔で指示できるのはありがたい。

 地域連携でのニーズもある。我々はこれまで、患者が病院から退院する際に病院側、在宅、患者家族が集まって退院前カンファレンスを行ってきた。これが今、ほとんど行われなくなっている。外部からウイルスを持ち込むリスクがあるとして、病院側は我々が病院を訪れることを嫌がるし、我々も病院で感染するリスクを考えると、互いに「やめましょう」と。だが退院前カンファを行うことで、紙の引き継ぎ書には書いてないような病状や、ちょっとした看護のポイントなんかを病院の看護師から聞くことができる。また、患者にとっても、病院の医師と在宅の医師の連携を目に見える形で示すことで安心感につながる。この退院前カンファについて、Zoomなどのビデオ会議システムを使って行うのは、今後も進んでいくのではないか。

 もう1つ、在宅医療で普及が進むと考えられることにePROがある。これは患者に自身の情報をアプリなどに入力してもらうシステムだ。患者の考えに沿って診ていくのが重要だという世界の流れに沿ったものだが、我々は在宅医療でも導入を進めていこうと考えている。先ほど述べた通り、在宅医療でも医師や看護師、介護従事者は、本当に必要がなければ居宅に足を運ばないようにしている。結果として、これまでは人の目が入ることで気付いていた発熱や食欲減などの情報が入らなくなって、我々が本来であれば早めに気付けたことに気付けなくなってしまう。そのような状況下では、やはり患者や患者家族に日常の情報を知らせてもらう必要がある。

 通常であれば、患者宅に置いたノートなどのアナログな手段を用いて医療・介護従事者と家族とで気付いた点を共有するが、我々が居宅を訪問しなければ見に行くこともできない。そのため、ePROが今後広まる可能性はあるのではないかと考えている。


──新型コロナが落ち着いた際にも、在宅医療では引き続き、このような新しい考え方や手法を用いられ続けるのでしょうか。

武藤 受療行動に関しては、外来よりも新型コロナから受ける影響は少ないのではないか。外来は2カ月から3カ月に1度でも病状にあまり影響がないケースもある。だが、在宅医療の場合は寝たきり、あるいは癌の終末期のような患者を診ているため、数カ月空けるわけにはいかないからだ。

 ただ、新型コロナの流行が落ち着いたとしても、感染リスクが減るわけではない。当分は現在のような騒動は落ち着かないのではないか。すると、在宅医療に対するニーズはあっても「やはり来てほしくない」ということは生じるため、ITツールを活用した診療を続けていかざるを得ないだろう。

 日経メディカルと日経BPの技術系デジタルメディア日経クロステックでは、このほど共同で「医療はDXでどう変わるか?」と題した連続のオンラインワークショップを開催します。医療とIT・データのそれぞれに詳しく具体的な取り組みを進めている5人の有識者に登壇いただき、ワークショップ参加者との意見交換を中心とした試みとなる予定です(参加費は無料)。

 9月2日は武藤氏を迎え、在宅医療のDXだけでなくオンライン診療などについても含めて議論を進めていきます。

第1回:新型コロナと医療データ活用の未来
2020年8月27日(木)19:00~20:00
慶應義塾大学医学部教授
宮田 裕章

第2回:在宅医療におけるデジタルトランスフォーメーション

2020年9月2日(水)19:00~20:00
鉄祐会祐ホームクリニック理事長/インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長
武藤 真祐

第3回:厚労省が推進するデータヘルス改革とオンライン資格確認

2020年9月9日(水)19:00~20:00
厚生労働省保険データ企画室長
大竹 雄二

第4回:東京都医師会で作る、人と医療をつなげるICT
2020年9月15日(火)19:00~20:00
目々澤醫院院長/東京都医師会理事
目々澤 肇

第5回:COVID-19で医師、患者の考え方はどう変わったか
2020年9月24日(木)19:00~20:00
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー ヴァイスプレジデント
大重 隆


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連載の紹介

新型コロナと医療データ活用の未来
新型コロナウイルス感染症のまん延に伴い、今後医療機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)やIT・データ活用はどのように変わっていくのか。有識者に見解を示していただくとともに、日経メディカルと日経クロステックの共催によるウェビナーの様子もお送りします。

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