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慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏に聞く
新型コロナによって変わる医療のデータ活用

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、医療とデータとの関係はどのように変わっていくのか。データサイエンスや医療政策を専門とし、新型コロナウイルス感染症対策では厚生労働省とLINEと連携して全国調査を実施した慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏に話を聞いた。

みやたひろあき氏◎2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。早稲田大学人間科学学術院、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学などを経て2015年より現職。

──今回のCOVID-19によって、データ活用の考え方はどのように変わるのでしょうか。

宮田 街がIoT(もののインターネット)でつながる「スマートシティー」という考え方はこれまで、経済を牽引する力のある企業や、イノベーションを進める人々の先進的な価値観の下で進められてきました。ですが今回の新型コロナの流行は、経済合理性を重視する中で取りこぼされてきた格差の部分から、感染拡大が進行しています。例えばシンガポールにおいては外国人労働者の中での感染拡大が問題になり、米国でもアフリカンアメリカンの人々の死亡率が高くなりました。日本における夜の街での対応もそうです。「夜の街」という存在そのものに責任を押しつけても状況は変わりません。その背景には、日本でも進行する格差の拡大があります。超高齢化が進行する社会の中では、若者世代は一層弱い立場になります、感染の第2波はそうした層からも感染が拡がっています。強者のためだけの社会ではなく、立場の弱い人やマイノリティーも包み込んだ上で進まないと未来の形はない、ということが確認されています。

 世界経済フォーラムも、経済合理性至上主義の見直しをテーマとして、今年を「グレートリセット」の年と位置づけています。今、世界各国は、経済と命のバランスだけでなく、人権や格差、教育、環境など様々な価値の中で、何を大事にするのかを問い直しています。

 こうした中で、データの位置づけも社会の中で大きくなっています。例えば日本で言えば、特別定額給付金をどう配るのか、という課題がまさにそうした課題を明らかにしました。マイナンバーと連動してデータが整備されていれば、給付金の配布の仕方も異なっていたでしょう。困っていない人にも一律に10万円を配るのではなく、経済的な痛みに応じて必要な人に給付するということができたはずでした。マスクも同じですね。マスクの在庫を国が管理できれば、ハイリスク者エッセンシャルワーカーには切らさずに提供し、一般家庭にも定期的に配布できていた。同じ在庫量であっても、買い占め騒動などを抑止することが出来たかもしれません。


──医療のデータも影響を受けますか。


宮田 ダボス会議で安倍晋三首相が提唱した「Data Free Flow with Trust(信頼ある自由なデータ流通)」とも関係しますが、「共有財としてのデータをどう考えるか」ということがまさに実践の場の中で問われています。新型コロナ対策でも、世界各国でデータが重要な役割を果たしています。今後ワクチンが実用化されるにあたり、世界を自由に行き来するためにはワクチンの接種履歴というデータを世界中で共有しなければならない時期が訪れます。また、PCR検査の結果や本人の健康状態、現地での行動の情報も合わせて、共有する必要があるでしょう。

 国を超えて、データを繋がなければならないという強い動機の中で、立ち上げられたのが米ロックフェラー財団や世界経済フォーラムが取り組むCommons Projectです。このプロジェクトの中で運用されるのが世界共通の電子証明書「コモンパス」です。日本では国際文化会館に事務局を置いています。コモンパスは共有財としてのデータをどう扱うかというモデルケースとなる可能性があります。


──コモンパスの動きは医療現場にも影響を与え得るのでしょうか?

宮田 医療は独自の方向で進化してきても許されていたし、世界各国でも電子カルテメーカーなどもデータを囲いこむ事業を進めてきていました。ですが、コモンパスの議論が始まったことで、検査結果を共有する仕組みを作らなければなりません。「HL7 FHIR」という国際規格を用いて運用を行う議論を進めています。

 こうした国際規格に対応して、情報を連携するという観点からも医療データ連係のターニングポイントになりうるでしょう。一方でグローバルの議論では、スマートフォンにデータを保存すればいいと考えています。しかしながら日本のスマートフォンの普及率は6割程度と先進国やG20の中でも最低レベルです。したがってスマートフォン非保持者も含めて包摂する仕組みを考える必要もあります。

 新型コロナに関するPCRの検査結果がどうだったのか、また、患者の背景は公衆衛生上重要な情報です。もちろん、電子カルテ情報を外につなぐからといって、精神疾患に対する医師の所見のようなセンシティブな情報をつなぐ、という話ではありません。連携するべき情報と、連携すべきではない情報を切り分けて、前者を段階的に連動させていくことになるでしょう。また、仕組みができあがれば、新型コロナ関連だけではなく、高額な医薬品を使う際など、実施時の情報登録だけでなく、実施後のフォローアップも含めて情報提供を求め、支払いに反映させる仕組みを作ることもできるでしょう。


──先生はLINEを用いた厚生労働省の「新型コロナ対策のための全国調査」も中心的に手掛けられています。


宮田 全国調査では、全ユーザーに対して通知でお願いするという、LINEが1度も使ったことのない資産を使って調査させて頂きました。他のプラットフォーマーでは同様の枠組みでお願いすることは困難です。

 LINEと厚労省の協定では、そうして集めたデータは、厚労省が指定した公的目的以外に使わないという内容となっています。一方で、データを提供した人々の信頼に応える為にも、分析結果を直ちにフィードバックすることが重要です。単に国が持っているだけではなんの役に立ちません。国からの依頼に対するLINE側の要望は、ただちに国民にフィードバックすることでした。極めて正しいことだと思います。8月12日から行った第5回調査も、分析チームは半日のリードタイムで解析を行いました。厚労省の考査を経て、分析結果は8月21日に公表されています。

 日経メディカルと日経BPの技術系デジタルメディア日経クロステックでは、このほど共同で「医療はDXでどう変わるか?」と題した連続のオンラインワークショップを開催します。医療とIT・データのそれぞれに詳しく具体的な取り組みを進めている5人の有識者に登壇いただき、ワークショップ参加者との意見交換を中心とした試みとなる予定です(参加費は無料)。

 9月2日は武藤氏を迎え、在宅医療のDXだけでなくオンライン診療などについても含めて議論を進めていきます。

第1回:新型コロナと医療データ活用の未来
2020年8月27日(木)19:00~20:00
慶應義塾大学医学部教授
宮田 裕章

第2回:在宅医療におけるデジタルトランスフォーメーション
2020年9月2日(水)19:00~20:00
鉄祐会祐ホームクリニック理事長/インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長
武藤 真祐

第3回:厚労省が推進するデータヘルス改革とオンライン資格確認
2020年9月9日(水)19:00~20:00
厚生労働省保険データ企画室長
大竹 雄二

第4回:東京都医師会で作る、人と医療をつなげるICT
2020年9月15日(火)19:00~20:00
目々澤醫院院長/東京都医師会理事
目々澤 肇

第5回:COVID-19で医師、患者の考え方はどう変わったか

2020年9月24日(木)19:00~20:00
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー
大重 隆


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連載の紹介

新型コロナと医療データ活用の未来
新型コロナウイルス感染症のまん延に伴い、今後医療機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)やIT・データ活用はどのように変わっていくのか。有識者に見解を示していただくとともに、日経メディカルと日経クロステックの共催によるウェビナーの様子もお送りします。

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