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第5回
全国の薬剤師がサポートしてくれます
住友別子病院薬剤部の矢野琢也氏に聞く

2010/04/21

 このとき初めて制酸剤とエルロチニブの関係に注目することになりました。この患者さんでは、脳のむくみを改善するためにステロイド投与が必要と考えられたのですが、ステロイドを投与しますとどうしても胃が荒れてしまいます。また、この患者さんではないですが、骨転移があればNSAIDsを投与することになります。いずれにせよ肺癌患者さんでは制酸剤が必須なケースが非常に多く考えられます。

 それまで、ゲフィチニブと制酸剤の関係は研究されていましたが、エルロチニブには情報がありませんでした。しかし、添付文書を見ても、ゲフィチニブは食後投与ですが、エルロチニブは食事の1時間以上前又は食後2時間以降投与となっており、単純にゲフィチニブで知られている結果を当てはめるわけにはいかないと思いました。代謝酵素もゲフィチニブは主にCYP3A4が関与し、未変化体からO-脱メチル体への代謝にはCYP2D6が関与していますが、エルロチニブではCYP3A4以外にCYP1A2の関与も認められており、まったく同じではありません。

 なぜ胃薬との相互作用に注意する必要があるかというと、ゲフィチニブやエルロチニブは錠剤ですが、介護者が手で触れることが考慮されていて、錠剤がフィルムコートされているからです。このフィルムコートは胃酸で溶けるようになっていますが、PPIやH2ブロッカーを服用しているとフィルムコートの溶解性が変わり、薬物動態も変わる可能性があるわけです。これまでの検討では、AUCが46%低下したという結果も見られているほどです。

 この件について医師と相談しましたが、治療上、ステロイド投与は必要ということでしたので、最大限薬物相互作用が起こらないような投与法を考える必要がありました。

 そうして医師に提案したのは、PPIを朝食後服用にするということでした。最も重要なエルロチニブはコンプライアンスが最も高い起床時の服用としました。PPIを朝食後服用とすると、およそ24時間経過して(相対的に)PPIの効果が最も弱くなっている可能性の高い起床時にエルロチニブを服用することになります。

 こうした処方の仕方について実際にエルロチニブの有効性を減じていないか、追跡した結果を学会で発表したのです。対象は肺癌患者23例で、評価可能な18例の追跡の結果、部分奏効例(PR例)2例、病勢安定例(SD例)7例、病勢進行例(PD例)9例で、奏効率は11.1%、病勢コントロール率は50.0%でした。この結果はEGFR遺伝子変異陰性患者を対象とした他の報告と変わりがないという結果でした。

 制酸剤の併用率はPR群で100%、SD群で71.4%、PD群で80%で、PR例は全例制酸剤を併用していましたが、それでもエルロチニブは有効性を示しています。ただし、このデータだけで制酸剤の投与方法をどのようにすべきかを判断するのは不十分ですので、今後さらに検証していく必要があると考えています。

 こうして医師から任されることは責任を感じるとともに、嬉しくもありますね。これによってまた新しい知識を真に身につけることができますし、医師が何を考えて処方されているのかも分かり、そして医師のお役に立てる機会も増えていきますから。

──業務が多く、帰宅される時間も遅いようですね。

矢野 当院では、化学療法を開始する場合、必ず事前に薬剤師が患者さんに説明しなければならないという決まりがあります。

 医師が患者さんに治療方針を説明し、患者さんから「化学療法をします」という同意が得られれば次に我々薬剤師がスケジュールや副作用について説明することになるのですが、通常、医師の説明は15時から17時頃になることが多いんです。その後、薬剤師の説明の時間になるので、説明は夜になることも多く、最初は「もっと早くにできないものか」と感じました。

 しかし、実際に説明をするようになるとこの時間が最適と思うようになりました。当院の夕食は18時で、その時間は患者さんのご家族が面会に来ていることが多い。当然、ご家族にも化学療法を開始することは説明されていて、患者さんはご家族から「お父さん頑張ってね。明日も来るから」といったような会話がなされていることが多いと思います。

 しかし、食事が終わるとご家族は帰宅されます。一人になった患者さんは、「明日からいよいよ抗がん剤治療か・・・」と思い、とても不安を感じるようです。そんな時間帯に薬剤師が行って、副作用の説明はするのですが、支持療法などコントロール可能な副作用も多いといった説明をするので、安心して前日の夜もよく眠れるようになるようです。どんな患者さんでも口をそろえたように「話を聞いて安心しました。よく眠れそうだ」とおっしゃってくださいます。こういった気遣いや世間話は絶対に必要だと思います。雑談をしたおかげで、これまで一切口を開こうともしなかった患者さんが、痛みなどの副作用や思っていることを口に出してくれるようになる、という経験は数多くありますから。

 モルヒネのタイトレーションも、痛いときに痛いと言ってもらえないとなかなか進みません。頑固なおじいちゃんに痛みを訴えていただくために三顧の礼をしたこともあります。1回行って、「今は話を聞きたくない」と冷たくあしらわれても、ニコリと笑って「後でまた来ます」と言えることが患者の心を開くと思います。

──患者の担当はどのように決められているのですか。

矢野 当院の薬剤師は15人ほどで、1人あたりの担当患者は平均20人くらいです。薬剤師はスペシャリストである前に、まずジェネラリストでなければならないと思いますので、当院の薬剤部員は全員がすべての業務ができるようになっていて、一度担当になった患者さんが次回別の疾患で入院されたときでも再度担当になる仕組みとなっています。言うなれば、1患者1薬剤師担当制で、例えば、今回外来化学療法で私が担当した患者さんが、次回骨折して整形に来院されても私が担当することになります。こうすることで初回面談は不要で、患者さんも安心できます。

 もちろん新人の時からすべての業務を担当できるわけではないので配慮したり、サポートに付いたりしますが、すぐに経験を積んで一人前になりますね。患者さんへの説明に連れて行ったり、医師を紹介してコミュニケーションがとれる環境を整えたりと、経験を積む機会を増やすのは先輩としての役目だと思っています。

 「多忙だね」「休み取れないんじゃない?」と聞かれることが多く、実際、週末に患者さんのところに行くことも多いです。しかし、私自身の趣味がスキーなのですが、冬は毎週末のようにお休みを頂いています。薬剤師全員が同じ仕事ができるので、外来化学療法について代わりに担当してもらうことだってあります。皆が同じようなスキルを持っているので安心して任せられますし、逆に私に分からないことがあれば休み中でも他の専門分野に詳しい同僚の携帯電話に連絡することがあります。休み中に電話すると嫌がられるかも知れませんが、同僚は皆、「それは面白い話だね。休暇明けにもっと詳しく話を聞かせてよ」と言ってくれますので、ありがたいですね。

 また、他院の薬剤師の方々と知り合う機会になるので、学会に参加するのが楽しみです。私は何か分からないことがあったら自身で色々と調べ、それでも分からなければ学会で知り合った薬剤師にメールして聞いたりしていますが、皆さん快く答えてくださいます。こうしたとき、「自分は一人じゃないんだ。同僚を始め、全国の薬剤師もバックにいてサポートしてくれるんだ」という心強さがあります。

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