日本で2007年4月に大腸癌に対して承認された初めての分子標的薬ベバシズマブは、血液中の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に結合することで受容体への結合を防ぎ、受容体との結合によって起こる血管の形成を妨げる働きを持っている。これによって、癌が栄養や酸素を得て増殖するのに必要な血管新生を抑制し、癌の増殖を抑える。また、癌組織特有の血圧が高くもろい血管の状態を緩和する作用もあるとみられている。

 ベバシズマブの有効性が最初に証明されたのは、ファーストライン治療として、5-FU+ロイコボリン+イリノテカンのIFL療法にベバシズマブを上乗せするかどうかで効果を比較したAVF2107g臨床試験だ。全生存期間はプラセボ群の15.6カ月に比べ、ベバシズマブ群で20.3カ月と、4.7カ月延長した。無増悪生存期間もプラセボ群より4.4カ月延長した(下図)。

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 また、NO16966試験では、5FU+ロイコボリン+オキサリプラチン(FOLFOX)またはカペシタビン+オキサリプラチン(XELOX)にプラセボかベバシズマブを併用し、比較した。この試験では、無増悪生存期間でFOLFOXに対するXELOXの非劣性が明らかになり、全生存期間についても両群は同等であることがわかった。さらに、ベバシズマブのファーストライン治療における有意な上乗せ効果が証明された。

 IFL療法後のセカンドライン治療での有効性に関しては、FOLFOX4療法にベバシズマブを上乗せするかどうかで効果を比較したEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)3200試験が行われた。全生存期間はFOLFOX4療法が10.8カ月だったのに対し、ベバシズマブを併用すると12.9カ月と明らかに延長した。無増悪生存期間についても、同様の延長が認められた。これらの結果から、ベバシズマブは重要な大腸がん治療薬の一つであるという地位を確立した。なお、サードライン治療については、ベバシズマブの上乗せ効果はなかったという結果が報告されている。

 抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体製剤であるセツキシマブのファーストライン治療での使用については、5-FU+ロイコボリン+イリノテカン(FOLFIRI)にセツキシマブを併用する群とFOLFIRI単独群を比較したCRYSTAL試験の結果、セツキシマブの投与により無増悪生存期間に0.9カ月の上乗せ効果を認め、ハザード比は0.85だった。セカンドライン治療での使用はEPIC試験で検討され、イリノテカンにセツキシマブを併用する群とイリノテカン単独群の比較で、無増悪生存期間に1.4カ月の上乗せ効果を認めた。ハザード比は0.69だった。

 サードライン治療でのセツキシマブの使用については、NCIC CO.17試験でBSCに加えてセツキシマブを投与する群とBSCのみの群を比較した。無増悪生存期間中央値では0.1カ月しか差がないが、ハザード比は0.68だった。このようなハザード比から、セツキシマブはファーストライン、セカンドライン、サードラインのいずれの治療ラインにおいても有効であることが示された。

 ただ、セツキシマブはKRAS遺伝子に変異がある「変異型」では、投与しても有効性が示されないことが明らかになっており、KRAS遺伝子変異がない「野生型」への投与が推奨される。日本でも2010年4月から、薬剤投与前のKRAS遺伝子変異検査が保険適用となる見込みだ。

 これらのことから、日本ではファーストライン治療でFOLFOXまたはFOLFIRIにベバシズマブを併用し、セカンドライン治療ではFOLFOX、FOLFIRI、イリノテカンからファーストライン治療以外のレジメンを選択してセツキシマブを併用する治療を進め、キードラッグを使い切る治療が現実的と考えられる。

●副作用への対応

 FOLFOXでは末梢神経障害、好中球減少、突然発現するアレルギー反応などが、FOLFIRIでは下痢、倦怠感、好中球減少などが副作用として知られている。

 ベバシズマブには高頻度の副作用はないが、3%以内で消化管穿孔や血栓症、ショック、アナフィラキシー様症状など、重篤な副作用が報告されている。消化管穿孔や血栓症は治療開始から3カ月以内の治療初期での発現が多いため、導入早期の管理が治療継続のカギを握る。

 一方のセツキシマブの日本における副作用の状況は、2009年の使用成績報告の中間集計で、皮膚症状64%、消化管障害6%、infusion reaction(IR)5%だった。IRは1回目の投与時に全体の約80%に発現している。生命に関わるグレード4のIRの発現率は0.93%で、アナフィラキシー、血圧低下、呼吸停止といった症状は投与後15分以内に発現し、グレード3のIRの発現率は5%で、60分以内に発現する。そのため初回投与時の投与後60分までの慎重な観察が重要である。

●術後補助化学療法

 大腸癌の術後補助化学療法の有効性を最初に示したのはINT-0035試験で、ステージIIIの大腸癌に対し、手術単独群と術後に5-FU+レバミゾールによる化学療法を行う群を比較した。術後補助化学療法で全生存率が約15%延長することがわかった。

 その後、術後補助化学療法として1996年に5-FU+葉酸の治療が確立され、2004年にはFOLFOXがさらに優れた治療であることが明らかになった。カペシタビン、UFT+ロイコボリンは5-FU+葉酸と同等で、5-FUのボーラス投与+オキサリプラチン+葉酸は5-FUのボーラス投与+葉酸よりも優れるというデータも出されている。

 ステージII、IIIを対象としたMOSAIC試験ではFOLFOX4と5-FU+ロイコボリンを、ステージIIIを対象としたX-ACT試験ではカペシタビンと5FU+ロイコボリンを比較した。3年の無再発生存率のベネフィットは、MOSAIC試験で7.0%、X-ACT試験で3.6%となり、ハザード比はそれぞれ0.78と0.87だった。この結果から、ステージIIIの大腸癌では現在のところ、FOLFOXが術後補助化学療法の標準治療であると考えられている。