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癌のいろは
食道癌

2010/05/10
(監修 愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長 室圭氏)

 そこで、JCOG9906試験では、前向きフェーズ2試験として、抗癌剤として標準治療であるFPと同時に日本の一般的な放射線量60Gyを照射する根治的な化学放射線療法を検討した。完全奏効(CR)割合は62%であった。治療関連死は4例報告され、食道穿孔から心外膜炎を併発した症例やCR持続中に放射線肺臓炎による呼吸不全を発症した症例など、いずれも放射線による晩期毒性に起因する治療関連死であった。

 3年生存割合は44.7%、5年生存割合は36.8%となった。この結果を同じ時期に同じ対象で行った手術療法の臨床試験である前述のJCOG9907試験と比較すると、術後化学療法群の結果(それぞれ48%と38%)とほぼ同様の成績であったが、術前化学療法群の結果(それぞれ63%と60%)を下回る成績であった(下図)。

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 この成績は、いわゆる一般病院の手術成績とほぼ同等であるが、がん専門施設や手術件数の多い医療機関の手術成績よりもやや劣る結果であった。日本の標準治療は、現状では術前化学療法+手術療法であると考えられ、根治的化学放射線療法は治療選択肢の一つという位置づけで考えるべきである。

 今後、化学放射線療法の治療成績を向上させるためには、晩期毒性を軽減する放射線照射法を開発し、遺残例や再発例に対するサルベージ手術を確立することが挙げられよう。さらに、新規抗癌剤や分子標的薬の導入によりCR割合の向上を図ることも重要だろう。

 欧州では、術前化学放射線療法と根治的な化学放射線療法の比較試験が二つ報告された。一つはフランスのFFCD9102試験で、40Gyまで化学放射線療法を行い、奏効例を手術群と化学放射線療法を継続する群に無作為割り付けし、比較した(下図)。成績は両群で同等であり、あえて手術を選択する必要はないという結論に至った。

 もう一つはドイツの試験で、導入化学療法を施行して40Gyまで化学放射線療法を行った後、手術を行う群と根治的な化学放射線療法を行う群に無作為化し、比較した。手術を加えた群でやや良好な成績が得られたが、有意差はなかった。術前化学放射線療法で奏効が得られた場合に限れば、その成績は両群間で全く差を認めず、手術を加えずに化学放射線療法のみで治療しても、十分な効果が得られる可能性が示された。

 こうした試験の結果から、切除可能な食道癌に対して、世界的に術前化学療法または術前化学放射線療法を行い、その後手術を行うという方法が標準と言ってよさそうだ。根治的な化学放射線療法については、まずこの治療法から始め、遺残・再発例にサルベージ手術を行う日本式の方法と、治療の途中で評価して奏効例には継続するという欧米式の方法がある。いずれも、生存成績に大きな差はないとみられる。

●遠隔転移に対する全身化学療法

 食道癌では、約20%に遠隔転移がみられる。日本の全身化学療法では、ファーストラインとして①CDDP+5FU②ネダプラチン+5FU③ドセタキセル+CDDP+5FU――などが行われている。このうち、ネダプラチンは日本にしかない薬剤で、フェーズ3試験は行われておらず、標準治療とは言えない。

 日本で行われたフェーズ2試験結果からは、CDDPとネダプラチンの奏効率などはほぼ同等と考えられるものの、血液毒性はネダプラチンの方が強い傾向がある。したがって、標準治療となるのはあくまでもCDDP+5FUであり、ネダプラチンは選択肢として、消化管毒性が低いなどの利点を生かして実臨床で使用していくべきと考えられる。また、3剤併用療法に関しては、至適投与スケジュールが定まっておらず、その有効性ならびに毒性評価と合わせて、今後の臨床試験で検討していくべき課題である。

 セカンドライン治療については、ドセタキセル以外の薬剤はまだ検討中の段階だ。

 今後有望な可能性がある治療薬としては、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1)、オキサリプラチン、イリノテカン、ビノレルビンなどが挙げられる。また分子標的薬についても複数の報告があり、セツキシマブ、エルロチニブなどの上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする薬剤や、ベバシズマブなどの血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を阻害する薬が今後注目されるものとみられる。

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