副作用を早期に検出するために

 日本国内において使用経験の少ないニボルマブは、臨床現場で初めて発見される副作用も少なくない。最近の例では劇症1型糖尿病の発生が注目を集めている。臨床試験の段階で注目されたのが、甲状腺などの内分泌障害。患者の自覚症状を迅速に把握することが医療側にも求められている。

 この日の2つ目の議題は薬剤部のスタッフによるもの。まず薬剤師による患者指導体制と教育ツールを紹介。初回指導では想定される副作用の種類、発現時期(発症まで長期間を経過する事例がある)、そのときの病院への連絡、副作用の症状を患者が自発的に記録する治療日記を紹介した。2回目以降の指導については、投与量、投与スケジュールの確認、検査値の把握、副作用の発現状況の把握、副作用に対する薬学的支援のあり方について参加者に課題を提起した。

 また説明内容を患者が理解しているかどうかを月1回程度の簡単な、しかし重要項目に絞ったテストを実施する方針を説明。一方で、繰り返し異なった医療職から質問され、患者がいたずらに疲労することを回避するために、患者の回答を異なった職種間で共有する副作用確認シートの利用なども提案された。

 呼吸器内科に先行してニボルマブを使用してきた皮膚科の医師は「良いアイデア」と評価。看護師からは外来化学療法センターとがん看護外来との間で情報が共有できる体制であることが重要と指摘する意見も出た。

 また「副作用にかかわる症状は治療の経過とともに変化することが予想されることから症状の変化が継続的追跡できるシステムが必要」という注文が出たほか、がん看護専門看護師からは「治療のパスを作成しその中で活用できるものが良い」という意見も上がった。

 中西氏は「関係スタッフと協議しながら、副作用シートの内容を吟味して現場でどのように活用するかのスキームの確認を行い、次回の委員会でもう一度討議すること」を指示し、この議題を収束させた。

診療科、職域の枠を超えた智恵の結集が鍵だ。

具体的に何を検査すべきか

 「ニボルマブがこれまでの抗がん薬と決定的に違うところは、既存の抗がん薬の多くはがん細胞に作用するが、このニボルマブは正常細胞に作用する。しかも免疫を動かすことで多彩な影響が予想される」と中西氏は語る。そのために、がんの専門家以外の幅広い専門家の知識や経験に耳を傾ける必要が出てくる。ここに臓器別、診療科単独のキャンサー・ボードとは異なる、診療科横断的な、多職種横断的な委員会を組織する必要性が出てくるのだ。

 現在の最重要課題は、限られた臨床経験から明らかになった副作用のリスクを下げるために“どのような観点で患者を選ぶのか”ということであり、そのために“事前にどのような検査を行うか”、さらに“フォローアップはどのように行うのか”という点だ。

 薬剤部のスタッフは討議の後半で、この点に踏み込んだ。特に時間を割かれたのが「免疫学的検査」の内容だ。提案は、リウマチ因子(RA)、抗核抗体(ANA)、SP-D、KL-6、初回抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ検査。またホルモン検査の甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離トリヨードサイロニン(free T3)、遊離サイロキシン(free T4)を計測するかどうか。

 副作用としていくつかの甲状腺の障害が報告されていることから、RAやANA検査の必要性とフォローアップのあり方などが検討された。ここで膠原病内科から参加した医師が、「開始後4週間毎にRA因子や抗核抗体検査を行うと保険の査定で削られる可能性が高い」と発言。同医師は慎重に言葉を選びながら「8週間毎ならば良いのではないか」と提案した。

 またニボルマブは自己免疫疾患が認められる患者には投与できないことになっているが、RA因子や抗核抗体が陽性と認められるが症状が認められない患者にどのような治療を行うかに討論が移った。こうした患者にニボルマブを投与した場合、強い副作用が出るかは投与してみないと分からないという問題点も指摘された。

 中西氏は「臨床の現場ではこのようなボーダーラインの患者に一律にノーということはできない。こうした患者に使用した場合の副作用の発現を注意深くみていきたい。大事なことはこのような症例こそ、この委員会の議題として取りあげ、診療科の枠を超えて議論する体制を作りたい」とRA因子や抗核抗体に関わる議論を引き取った。

 検査項目についてはなおも議論が続き、血液内科の医師からは「血小板とフィブリノーゲンやDダイマーなどの血液凝固に関わる検査を行うべき」との意見が出た。

 ウイルス検査については、九州という風土特有のやりとりもあった。すなわちエイズウイルス(HIV-1)抗体と成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)抗体の検査を事前に行うかどうかだ。HIV-1検査は見送られたが、「感染者が九州地域に多い」ことを理由にHTLV-1の抗体検査は実施することになった。