活性酸素消去で細胞傷害も軽減
そこで同氏らは、まず手足症候群の発症に2価イオンが関与していることを証明するために、表皮細胞由来の細胞株HaCaTにドキソルビシン単独を添加した場合とドキソルビシンに2価イオンの銅イオン(Cu2+)を添加した場合とを比較した。すると、HaCaT株の生存率はドキソルビシンと銅イオンが共存した場合の方が低下することが分かった。さらに、ドキソルビシン、銅イオンとともに活性酸素除去作用がある酵素スーパーオキサイド・ディスムターゼ(SOD)を添加すると、生存率は有意に改善することが明らかになった(図)。

図● ドキソルビシンと銅イオン、SODの相互作用
HaCaT細胞株(ヒト表皮細胞由来)にDOX(ドキソルビシン)、2価イオン(Cu2+)、SOD(スーパーオキサイド・ディスムターゼ)を投与した結果。DOXによる障害はCu2+で強くなり、SODで緩和された(HUMAN CELLDOI 10.1007/s13577-012-0057-0)。
また、リポソーム製剤化によって手足症候群が発症するようになった理由を、同氏は「ドキシルの長期血中動態のため、ドキソルビシンが血管外漏出しやすくなった結果」と説明する。漏出したドキソルビシンが皮膚内の金属イオンと反応し、活性酸素を生じさせる。この活性酸素が表皮細胞の炎症性サイトカインの産生を促し、表皮細胞のアポトーシスを促すというのが山口氏らの結論だ。
これらの結果から山口氏らは、ドキソルビシンは血管外に漏出し、皮膚内の金属イオンと反応し、活性酸素を生じ、これが表皮細胞の炎症性サイトカインの産生を促し、表皮細胞のアポトーシスを誘発する。これらの反応が、皮膚障害を引き起こすと結論した。
消去剤含有軟膏を院内調剤で
皮膚で発生する活性酸素を消去できれば、手足症候群の発症を防ぐことができるはずだ―。山口氏の狙いは、経皮的に活性酸素消去剤を患部に投与する新規治療法の開発にある。「そのために、発生している活性酸素の種類を特定する必要がある。抗がん剤の違いによってもその種類は異なる可能性がある」と同氏は語る。
活性酸素種には、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素などの種類があり、それに相応しいSOD、カタラーゼなどの消去剤が想定できるという。さらに、化粧品や健康食品などで使用されるアスタキサンチンも有力な候補だという(ただし、アスタキサンチンは紫色の状態の分子であることが重要。巷間流通しているオレンジ色の商品の化合物の抗酸化作用は期待できないのだそうだ)。
ナノエッグは今回の研究成果について、特許を出願している(特願2012-262885号)。期待しているのは、各医療機関にノウハウを提供し、院内調剤によって使用してもらうことだという。
今回の研究結果は、EGFR阻害に由来する手足症候群には当てはまらない。しかし、山口氏は、「我々の強みである、局所投与の技術を活かして、皮膚のEGFR阻害を緩和することができれば、分子標的治療薬の手足症候群も緩和できる可能性があり、将来は研究していきたい」と語っている。

片木美穂氏