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特別リポート:支持療法
免疫栄養療法の実力は?
がん免疫栄養療法研究会が症例検討会を開催

2012/09/01

Part 3
パネルディスカッション

がん免疫栄養療法の適応と開始時期は
 今回の検討会で供覧された症例は、ほとんどが消化器がん患者であった。会の最後に実施されたパネルディスカッション「いつ、どのような患者に免疫栄養療法を開始するか?今後の臨床試験の必要性について」で、司会の大隈病院院長の谷口正哲氏は、一般に体重減少は消化器がんに限らずほとんどのがん種で生じる現象であることから、適応についても特定臓器のがんに絞る必要はないと考えられると述べた。

 これに対して石黒氏は、化学療法の開始時期は悪液質が可逆性を有する段階にあるとし、適応についてはがん種よりもタイミングに軸足を置く考えを表明した。今村氏もこの意見に賛同し、エビデンスが十分に整っていない現段階では患者が有効性を実感できることが重要とその理由を説明した。また、星氏は炎症状態を重視し、化学療法だけでなく手術例も適応とし、術前・術後とともに終末期緩和ケアにおいても施行を考慮すべき治療法であるとした。

コンプライアンスを向上させるには
 がん免疫栄養療法の有効性が発揮される上で、コンプライアンスは重要である。窪田氏は、プロシュアについてはパックからグラスに移したり、氷を入れて冷やしたりといった工夫の仕方を患者に提示しているという。丸山氏は患者教育が重要とし、濱氏と田中氏はそのためにもエビデンスが必要であり、Albの改善状況をデータで示してコンプライアンス向上を図っているとノウハウを開示した。星氏は、NSTが介入してプロシュア手帳を渡し解説DVDを見せているとのこと(囲み記事参照)。有効例を経験するとスタッフの積極性が増し、好循環となる実態を紹介し、教育は患者だけでなく医療スタッフにも行うべきとした。

今後の臨床試験の進め方
 今村氏から、がん免疫栄養療法の早期開始の有効性を明確にする意味でもエビデンスの構築は不可欠であり、これはコンプライアンスにも関わる問題とし、炎症状態が高じていて栄養状態が悪化している最重症群を対象とした臨床試験を計画する必要があるという考えが示された。谷口氏は、報告された使用症例の多くががん悪液質群であったことからこの意見を肯定するとともに、臨床病期が進行していないにもかかわらず、既にGPSががん悪液質群に相当するケースがあることを考慮し、こういった患者群で術前免疫栄養療法の有効性を検討する必要性を指摘した。
(ライター 横山知典)

腸を使うことの意義を再認識してほしい
がん研有明病院消化器外科医長 比企 直樹 氏
 がん患者に対して治療と並行してどのような栄養補給を行うべきかが医療関係者から注目されるようになってきた。この背景にはがん患者の数が増え、一般的な疾患として認知されるに従い、栄養障害の改善の関心が高まったという状況の変化があるように思う。がん患者の栄養障害で最も注意すべき特徴が「栄養を補給されていても痩せてしまう」ということでは異論はないだろう。体重減少をなんとかしたいという関係者が効果的な対策を模索している。
 このような中でがん患者の病態に合わせたいくつかの食材が登場している。今回のがん免疫栄養療法研究会の症例報告会で報告されたプロシュアには2つの大きな長所がある。1つめは、「腸を使う」ということだ。経静脈栄養補給は消化機能の観点からは1種の絶食状態にあるとみなすことがきできる。腸を使わなければ腸管免疫の賦活も起こらない。腸管粘膜も委縮し、腸内細菌が腸管バリアを破って臓器内に侵入するバクテリアトランスローケーションを招来することもあり得る。がん患者ではとにかく長期にわたって腸を使うことが大切だ。
 2つめの長所は、プロシュアがEPAを2gと大量に含んだ設計となっている点だ。前述のようにがん患者では「栄養補給しても、食べても痩せていく、筋肉量が低下する」という現象が見られる。EPAなどのω3系多価不飽和脂肪酸は、がん細胞が分泌するたんぱく質分解誘導因子の活性を落とすと同時に高濃度のたんぱく質を補給する機能を持つように設計されている。EPAを毎日、2g摂取するとたんぱく質分解誘導因子の活性を低下させる研究結果が海外で蓄積されている。
 プロシュアはキャラメル味なので、患者によっては飲みにくいと感じる人もいる。意義を理解して継続してもらいことが必要だが、私は携帯端末のiPadに必要な情報を入れて、診療の待ち時間などに見てもらうことにしており、概ね好評である。
魚好き日本人ではEPA摂取は飽和?
 一方で、魚食文化が根付いている日本人は既に欧米人よりも多く魚を食べており、EPAの摂取量も5~6倍に達するという事実も無視できないのではないかと思う。言い換えると日本人の場合、EPA摂取量が飽和している可能性もある。そうすると、欧米人患者で証明されたような効果が、日本人患者でも見られるかどうかという問題も出てくる。日本人患者を対象にした臨床研究が必要とされる理由といえよう。 (談)

患者の全身状態に配慮した治療のきっかけになるといい
がん免疫栄養療法研究会代表世話人 名古屋市立大学大学院医学系研究科消化器外科学教授 竹山 廣光 氏
 がんの専門医が行っている治療を見ていて違和感を覚えるのは患者ががんと治療の2つとの戦いでヘロヘロになっているのに、それに頓着しないで次の治療を実施しようとしている場面に遭遇したときだ。高齢者の低栄養に対して栄養介入を図ることは普及してきたが、がん患者への栄養介入は普及しているとはいえない状況にある。何とかしなければと行動に移す医師が少なかったように思う。でもそれは当然といえば当然であり、栄養状態が悪化して、悪液質の状態になったときにとる有効な対策が存在しなかったためだ。
 EPA含有栄養剤のプロシュアに限らず、こうした状態に積極的に介入する食材や薬剤が登場してきたことは注目に値すると思う。免疫賦活作用を持ったインパクトや経腸栄養剤のラコールなどがある。EPAのω3系多価不飽和脂肪酸には過剰なサイトカインの産生を落とすが、免疫抑制を来す手前では落とさないという優れた機能がある。患者の除脂肪体重を維持するためには、窒素も同時に供給することが必要になる。
 周術期だけではなく、がん患者の化学療法前、補助化学療法時の栄養療法としてエビデンスの集積、具体的には副作用の問題などにより減薬、休薬しなければならない患者への治療継続のための支持療法として確立できるエビデンスの集積も必要となるだろう。将来は、生存率への影響やがん種のステージにより化学療法が異なる場合にどのようながんに有効かなどの観点からも検証し、エビデンスを集積する必要がある。
RCTの設計に知恵を絞るべき
 こうした食材や薬剤をがん患者に使用した場合の研究報告は欧米にはあるが日本ではほとんどない。多施設無作為化比較試験(RCT)を行って効果を検証することが必要になり、現在研究会の会員が中心になって胃がん患者と大腸がん患者を対象にしたRCTを行おうと試験デザインを進めている。
 その際に問題になるのは、どのような患者を登録し、いつから食品の投与を開始していくべきかという点だ、主要評価項目については、最も考えやすいのは、悪液質への移行を防ぐことができるかどうかであると思う。研究会でも報告があったが、化学療法を継続させる支持療法として免疫栄養の有効性を検討する場合は化学療法の継続率を評価項目にすると良いと思う。供給するエネルギー量だけではなく炎症マーカーであるCRP値のモニターは必須になるだろう。
 臨床試験の設計は知恵の出しどころだが、そのためには現時点では症例報告も重視したい。確かに症例報告は医学的エビデンスとして低いが、限られた患者コホートの追跡や症例報告から得られる教訓はどんどん取り入れて、エビデンスが高いRCTを組む素材としたいと考えている。免疫栄養療法はあくまで支持療法の1つであるが、治療の継続という観点からは最も重要な役割を果たしている。がん患者は医療費だけではなくサプリメントや民間療法にもかなりの費用を負担しているという事実がある。不安を抱えている患者や家族にエビデンスのある免疫栄養療法を根拠をもって医師が提案できることが今後ますます重要になるはずだと思う。 (談)

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