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“イレッサ”ある分子標的治療薬の軌跡 第2回
迷走する“イレッサ”
近畿大学医学部腫瘍内科 特任教授 西條 長宏

2012/08/01

 一方で生存曲線は、治療開始後18カ月まではドセタキセル群が、それ以後は“イレッサ”群が良好な傾向を示した(図2)。即ち北里大学の竹内正弘氏が指摘したように、治療効果は時間と共に変動した(図3)。この理由として、(1)“イレッサ”の投与が初期腫瘍増殖を促進する、(2)“イレッサ”の毒性が一部の患者で強く出現する─などの可能性が指摘された。いずれの仮説も奏効率の差や全体としての薬剤毒性プロフィールとその強度のデータからは成り立たないと思われる。

 V15-32 trialの成績が得られた2006年当時、具体的なデータはなかったが筆者は次のように推定した。「殺細胞性抗悪性腫瘍薬は正常細胞も含め全ての細胞に作用する。CR(完全奏効)、PR(部分奏効)はもちろんSD(病勢安定)、PD(病勢進行)であっても全ての細胞は何らかのダメージを受ける。一方、分子標的治療薬、特に腫瘍細胞自身の特性に作用する薬剤はその標的を持つ細胞にのみ作用し、他の細胞には全く効かない。

 そして標的を持たないがん細胞が大半を占めている可能性がある。ゆえにがん細胞全体に対する効果を考えると、奏効率は低くても殺細胞性抗悪性腫瘍薬の生存を延ばす効果が分子標的治療薬のそれよりも良好なことは十分あり得る」(Saijo N. et al, Nature Rev. Clin. Oncol. 6:287,2009) (図4、図5)。

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