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“イレッサ”ある分子標的治療薬の軌跡 第2回
迷走する“イレッサ”
近畿大学医学部腫瘍内科 特任教授 西條 長宏

2012/08/01

 したがって“イレッサ”とエルロチニブが殺細胞性抗悪性腫瘍薬と併用され、いずれも全く追加効果を示さないことは、両薬剤が同じようにEGFR変異を持つNSCLCに対してのみ有効と考えざるを得ない。これらの研究は、EGFR変異とEGFR-TKIの関連が全く不明な時点で行われたことを考えると、日本人は対象患者に含まれていなかったものの結果として多数の患者に迷惑をかけたことになる。

 医学の未熟さと不確実性および、その進歩が実地医療や臨床試験計画の後追いになる典型例かもしれない。これらのEGFR-TKIと殺細胞性抗悪性腫瘍薬の同時併用の研究結果は、現在EGFR変異(+)のNSCLCに対する臨床試験にも強い影響を与えており、殺細胞性抗悪性腫瘍薬とEGFR-TKIの同時併用のプロトコルは皆無という状況である。EGFR変異(+)の進行のNSCLCに対し根治を狙える戦略は、“殺細胞性抗悪性腫瘍薬とEGFR-TKIとの併用”しかないと思うのは筆者だけだろうか?

5)SWOG S0023 trial(III期非小細胞がんに対する放射線化学療法+ドセタキセル強化療法後“イレッサ”による維持療法の意義を比較する試験)
(Kelly K et al, J. Clin. Oncol. 26: 2450, 2008)

 EGFR変異による患者選別を行わない“イレッサ”の臨床試験の成績は、ISEL試験報告の頃から陰りが見られたが、SWOG(South West Oncology Group)S0023 trialはそれを決定的にした臨床試験であった。S0023 trialは、3期のNSCLCを標準的同時併用放射線化学療法(シスプラチン+エトポシド)後、ドセタキセルを強化療法として行い、その後の“イレッサ”対プラセボ2群の生存期間を評価する無作為化比較試験であった。

 2001年7月に症例のエントリーが開始され、2005年4月に中間解析を行い症例登録が中止されるまでに243例が両群に登録された。予定登録症例数は672例であったため36.2%の症例エントリーの成績である。

 最初の放射線化学療法にエントリーした症例数は620例であった。即ち全体の39.2%(243/620)の症例がこの研究に参加したことになる。“イレッサ”群(118例)およびプラセボ群(125例)の生存期間の中央値はそれぞれ23カ月及び35カ月で、“イレッサ”群の生存期間が有意に悪かった(p=0.013)。

 この理由として、まず(1)“イレッサ”群では毒性が強い、(2)臨床病理学的特性の不均等、などが考えられるが、いずれの理由もS0023 trialでは否定されている、(3)分子生物学的特性の不均等はあるかもしれないが、それで“イレッサ”群の生存不良を説明することは難しい、(4)プロトコル治療終了後の他の治療の影響、(5)放射線治療によるEGFRシグナル伝達の変化による耐性化、(6)エントリー全症例中わずか39.2%の症例による比較試験のためのバイアス─など色々な因子を考えることはできるものの、理由はよく分からない。もちろん偶然の可能性も十分にある。

 Karen Kelly博士も結論で述べているように、3期NSCLCに対する放射線化学療法にEGFR-TKIは使用すべきでないと思うが、何故そうなるのかについてリバース・トランスレーショナルスタディによる解明が必須である。

6)V15-32及びINTEREST trialの解釈(進行再発前治療不応性NSCLCに対する“イレッサ”対ドセタキセルの比較試験―2nd line)

A)V15-32 trial(Maruyama R. et al, J. Clin. Oncol. 26:4244,2008)
 この研究は全くのnegative試験であり、結局のところ確定的な結論は何も得られなかったが、様々な物議を醸した。V15-32 trialは、日本人のNSCLCを対象にした2nd line治療としての“イレッサ”と標準的治療であるドセタキセルの比較試験で、症例の登録は2003年9月から2006年1月の間に行われた。

 途中でEGFR変異とEGFR-TKIの効果に関する報告がなされたもののIDEAL I studyでの日本人に対する奏効率27.5%を念頭に置くとドセタキセル単独治療に対し、少なくともnon- inferiorityの証明は可能で、あわよくば生存期間の延長をも示せるかも知れないとの理由から、患者選択を全く行わずに実施された。

 “イレッサ”群245例、ドセタキセル群244例の各々のMSTは11.5および14.0カ月で、ハザード比は1.12(00.89-1.40)で優越性どころか同等性も示されなかった。この試験での“イレッサ”とドセタキセルの奏効率は各々22.5% vs. 12.8%で“イレッサ”の方が高かった。

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