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“イレッサ”ある分子標的治療薬の軌跡 第2回
迷走する“イレッサ”
近畿大学医学部腫瘍内科 特任教授 西條 長宏

2012/08/01

 薬剤を評価する場合にサブセット解析の結果をどの程度重視すべきかについては、依然として大きな課題といえる。ISEL studyの人種差と“イレッサ”の有効性の間にはbaseline covariate interaction(図1)は存在するものの、あくまでもquantitativeなものでありqualitativeなものでなかった。

 しかし一方、殺細胞性抗悪性腫瘍薬のペメトレキセドがサブセット解析の結果、非扁平上皮がんに対してゲムシタビン投与群に比べて優れているという理由(しかもBiologicalな根拠がTS:Thymidylate Synthetase レベルの差)で非扁平上皮がんに対する適応が得られているということを考えると、抗悪性腫瘍薬が承認されるか否かは効くか効かないかに加え、製薬メーカーの戦略に負うところも無視できないようだ。

 確かにIDEAL studyでは、常識では考えられない因子を予後因子として導入することにより“イレッサ”の治療効果には「人種差がない」という成績にしてしまったがために、ISEL studyでは「御邪魔しました」と引き下がらざるを得なかったのかもしれない。しかしこのISEL studyの成績は、後のIPASS studyを設計する上で重要な根拠になった。

 ISEL studyで感じたことは、「欧米人の研究者はp=0.05が勝負の分け目であり、この値より少しでも小さければ無効、逆に少しでも少なければ有効と判断する」というものであった。その潔さは見習う必要があるだろう。

 もちろん「無効」と結論してもサブセット解析で何らかの効果のニオイを嗅ぎ取った場合、それを検証するために次の大規模な臨床試験を計画することが必須と思われる。

4)INTACT I、II trial(標準的化学療法に対する“イレッサ”の上乗せ効果を示す試験―1st line)
(Giaccone G et al, J. Clin Oncol., 22:777,2004, Herbst. RS et al, J. Clin Oncol. , 22:785, 2004)

 第2相試験での高い奏効率を背景にEGFR-TKI導入の早い時期に化学療法にEGFR-TKIを併用する意義を検証する試験として“イレッサ”ではINTACT(Iressa NSCLC trial Assessing Combination Therapy (INTACT-1m INTACT-2 trials)、エルロチニブではTarceva Lung Cancer Investigation (TALENT)および Tarceva Responses in conjunction with Taxol and Carboplatin(TRIBUTE) trialsが行われた。

 INTACT 1 trialは2000年5月~2001年3月、INTACT 2 trialは2006年5月~2009年4月の間に症例登録が行われた。いずれも1,000例以上の症例を対象とした比較試験であったが、奏効率、増悪までの期間(TTP)およびOSに対するEGFR-TKIの追加効果を認めず、4つの試験の2群の生存曲線はほぼ重なった。

 この追加効果を認めなかった理由として、(1)“イレッサ”およびエルロチニブの治療効果のマグニチュードが弱い、(2)EGFR-TKIは分裂期の細胞に対し作用するため“イレッサ”およびエルロチニブによる細胞周期が停止するために殺細胞性化学療法薬の効果が減弱する、(3)EGFR-TKIが変異EGFRに対してのみ作用するとすれば効果は大半を占める、野生型EGFRを持つ細胞によって薄められてしまう─などの理由が考えられた。

 しかし、これら4つの比較試験の結果には大きな謎がある。すなわち、BR-21studyのデータが正しいとすれば、エルロチニブは野生型EGFRを持つNSCLCに対しても十分な有効性を示すはずである。また従来行われていた併用化学療法においても細胞周期を停止する薬剤が複数併用されることも多い。

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