また膵頭部がんよりも膵尾部がん患者が多かった(図1)。一般的に膵頭部がんは黄疸も出やすく、生命予後が悪いことが普通だ。膵尾部患者を意図的に増やしたと考えられるが、それが試験デザインの中に入っていたのか、それとも参加した医師らがプロトコールとが別に尾部がんを増やしたのかがはっきりしていない。「副作用の強さは理解されているので、試験に参加した医師らが、全身状態(PS)の良い患者を選んでいった結果、膵尾部がんが多くなった可能性がある」と奥坂氏は見ている。日本国内で、治験を行う場合、このがんの部位を患者の登録基準に入れるかどうかは専門医の間でも意見は統一されていない。

膵臓は左から「膵頭部」「膵体部「膵尾部」に分かれる。膵頭部のがんは総胆管を圧迫して黄疸が出やすい、主膵管を圧迫して膵液の流れが悪くなり膵炎を発症しやすい。膵尾部がんは、黄疸が出にくく発見が遅れやすい。
はっきりしているのは、とにかくPSが良好な患者ではなければFOLFIRINOXの対象にはならないという点だ。フランスグループの報告ではPSは0~2だったが、日本で臨床治験を実施する場合は、PSは0の患者に限定して開始する必要もあるだろう。大川氏は、「(FOLFIRINOXの対象患者は)PSが0でも足りない、“-1”でもいいくらい」だと語る。
日本国内治験の詳細なプロトコールは、まだ定められていないが、患者の登録基準はより厳格なものになることは間違いないだろう。閉塞性黄疸が認められる患者も対象とはできないだろう。通常の治験では黄疸ビリルビン値は3mg以下までが入るが、今回の試験はより厳しく「正常者に限定する」ことになるだろう。
大川氏が指摘したフランスの発表が、腫瘍内科が中心になって実施されたことは象徴的な意味を持っている。佐藤氏は、「FOLFIRINOXの治験を進めるには副作用をきちんと管理できる体制を作っておくことが欠かせない。ここに腫瘍内科医の手腕が試されるところだ。期待する一方で、怖い治療法でもある。うまく育ってくれればよいと願っている」と語っている。