わが国の医薬品の承認、保険医療政策のあり方について
現在、厚生労働省が承認する卵巣がんに対するPTXの用法は3週ごとに1回投与であり、今回の毎週投与法は保険適応外である。JGOG3016試験は治験としてではなく、NPOであるJGOGの研究者主導臨床試験として行われた。そのため、JGOG、日本臨床腫瘍学会から、JGOG3016の結果を基に、昨年、厚労省に新用法追加承認を要望しているが、厚労省は104号通知(いわゆる“二課長通知”※別掲解説参照)での申請を勧めているということである。
この二課長通知による承認方法は、既にエビデンスが確立されており、国内でも使用経験が十分にあるという薬剤を、治験をせずとも承認申請できる、という制度であり、平成16年(04年)にも厚労省内に抗がん剤併用療法委員会が設置され、多くの抗がん剤が承認された(抗がん剤併用療法に関する報告書について)。
しかし、この二課長通知による承認方法では、結局治験と同じように、企業からの承認申請、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査、中央薬事審議会による審議を要し、承認まで半年から数年以上かかってしまう。これでは適応外薬のドラッグ・ラグは縮まらない。
そもそも海外では、すべての疾患、薬剤に対して、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品審査庁(EMEA)が逐一審査をしていない。主要な疾患に承認されたら、後は主要なpeerreviewジャーナルに載るようなエビデンスがあれば、順次保険適応とされるしくみが海外では確立されている。
米国の例を挙げると、PTXの週1回投与方法は、FDAでは承認されていないが、臨床第2相試験の結果により有効な治療法と考えられ、米国ではNCCN drugs & compendiumに掲載され、既に米国の公的保険であるメディケア・メディケイドでも適応が認められている。NCCN(National Comprehensive CancerNetwork)とは、全米で代表的な21のがんセンターによって結成されたガイドライン策定のための組織である。このNCCNが作成した薬剤と適応疾患に対するエビデンスの一覧が記載されたものが、NCCN drugs & compendiumである。
NCCNガイドラインに掲載された薬剤は順次NCCN drugs & compendiumに掲載され、保険償還されるしくみになっている。PTX週1回投与方法は、FDAでもEMEAでも承認された投与方法ではないが、既に米国・欧州では、卵巣がんに対するPTX週1回投与方法は保険適応とされている現状にある。前述したGOG0262、ICON8の両試験ともに、治験ではなくて、公的保険でカバーされた上での臨床試験として実施が予定されている。エビデンスを作った当の日本で保険適応でないのに、これからエビデンスを作ろうとしている米国・欧州で既に保険適応にある矛盾は理解に苦しむ。
日本でもNCCN drugs & compendiumのようなガイドラインに基づいた薬剤一覧を作成することにより、PMDA・審査管理課による薬事法上の承認ではなく、保険適応のみを決める厚労省保険局医療課による簡便、合理的、コストのかからないスピーディーな承認方法に切り替える方策を採用することは難しくないように思う。この方策は、適応外薬剤のドラッグ・ラグを解消し、何よりも患者さんに一番に利益をもたらすと考えられる。また、ガイドラインを保険適応に直結させることにより、臨床医・研究者に臨床研究へのモチベーションを上げる効果をもたらし、わが国の臨床研究の発展に寄与できると思われる。
1) 外国(本邦と同等の水準にあると認められる承認の制度もしくはこれに相当する制度を有している国をいう)において、既に当該効能または効果等により承認され、医療における相当の使用実績があり、その審査当局に対する承認申請に添付されている資料が入手できる
2) 外国において、既に当該効能もしくは効果などにより承認され、医療における相当の使用実績があり、国際的に信頼できる学術雑誌に掲載された科学的根拠となり得る論文または国際機関で評価された総説などがある
3) 公的な研究事業の委託研究などにより実施されるなど、その実施に係る倫理性、科学性および信頼性が確認できる臨床試験の試験成績がある(編集部)