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緊急寄稿◎民間病院経営者が訴える病院経営の実情
国のCOVID-19対応病院に対する補償は十分なのか

2021/01/19
小林豊(さくら総合病院病院長)

私は愛知県の尾張北部医療圏、愛知県大口町に位置する、ICU 4床、一般病床 220床、療養病床 166 床 (うち回復期リハビリテーション病棟58床、地域包括ケア病棟50床)の⺠間の総合病院の病院⻑であり、 その経営母体となる医療法人の理事⻑である。

 我々は、2020年12月1日より急性期一般病棟の26床を潰して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応病床20床を確保。中等症のCOVID-19患者の入院受け入れを開始している。これは愛知県の民間病院では最大規模である。

こばやしゆたか氏◎麻布高校卒、2000年千葉大学医学部卒。2008年同大大学院医学研究院先端生命科学専攻先端外科学修了。千葉大学医学部付属病院第二外科、千葉社会保険病院、国立がんセンター中央病院、船橋市立医療センターを経て、2015年さくら総合病院病院長。2019年より理事長も兼務する。

 当院が所在する愛知県の尾張北部医療圏は2020年4月、「尾張北部圏域病院長新型コロナウイルス感染症対策検討会」で「COVID-19の入院加療は全て公立・公的病院が担う」という合意が得られていた。2020年夏の第2波は公立・公的病院だけで乗り越えることはできたが、11月中旬に入って第3波が見えてくると、公立・公的病院だけでは対処しきれなくなるのは明らかであった。そこで当院では会議を重ね、減収を覚悟の上でCOVID-19対応病床の整備を決断したのである。

 ではなぜ、当院が20床を確保したのか。これは開業時から「断らない医療を通じて、安心安全な医療・療養環境を提供する」を理念としているからに他ならない。COVID-19という世界規模の大災害において「断らない医療」を継続していくためには相当数のCOVID-19病床を持つことは不可欠と考えたからである。しかし、当院のような中規模の民間病院が公的病院の何倍もの対応病床を準備するのはとても大変なことであり、多くの従業員の覚悟と努力と信念によって支えられているにすぎないことを強調しておきたい。

 メディアでは、「公的病院に比べて民間病院がCOVID-19患者の入院を受け入れていない」との指摘を多く見かける。そもそも日本の民間病院の多数を占める小規模病院はリハビリテーション病床や介護療養病床が多い。これらの病院は日頃から急性期医療を手掛けておらず、COVID-19患者を受け入れるのはソフトもハードも不可能である。また、COVID-19を診るためにはマンパワーが必要で、感染管理認定看護師も不可欠となる。そのため、単純にコロナ受け入れ病院数で公立・公的病院と民間病院を比較すること自体がナンセンスである。

 そして、ヒトもモノもそろった病院であっても、COVID-19患者を受け入れることはもっと単価が見込める通常の急性期病床を潰すことでもある。公立・公的病院は赤字になっても税金や運営団体からの繰り入れを期待できることが少なくないが、民間病院は赤字が続けば普通に倒産する。そもそも、医療が日進月歩で高度化して機器などのコストが高くなり、常に投資が求められるにもかかわらず、診療報酬は改定のたびに事実上の減算がなされている。また、働き方改革への対応が求められ、人件費も増加の一途をたどっている。近年の総合病院はどこも赤字ギリギリの経営を強いられており、財政的に守られていない民間病院に「さらに経営を圧迫して、かついろいろなリスクを背負ってCOVID-19に対応しろ」と求めること自体に無理がある。

 2021年に入って、政府は「COVID-19対応病院へ十分な助成金を出していく」とメディアを通じて発信している。当院のような一般病床でCOVID-19患者に対応する場合、1床当たり450万円支給される。診療報酬については、COVID-19患者の症状の軽重に応じて、救急医療管理加算の3倍から5倍 に相当する加算を算定できる他、通常は7日間のみ認められている加算が、14日間算定できるようになる。また通常は第二種感染症指定病院でなくては算定できない「二類感染症患者入院診療加算(250点/日)」も算定できる。空床補償として、重点・協力医療機関以外の一般病院が重症・中等症者向け病床を確保しておいた場合、1床1日当たり4万円程度(愛知県は協力医療機関を増やさない方針(?)ということで指定してもらえていないので)の支給もなされている。愛知県ではさらに患者1人を入院させるごとに110万円の応援金を用意している。

 ただ、一般病床でCOVID-19患者対応を行った場合の助成金や県からの応援金は、「感染管理に関する物品を購入した場合の実費補填」に限られる。また、感染管理を目的に新たに雇用する従業員の給与には充当できるが、現行の従業員がCOVID-19エリアで従事した際は追加手当のみそこからの支払いが許されるなど、病院の減収の補填や既存の従業員の給与への充当が認められていない。

 また、COVID-19患者の受け入れによって医療機関は、風評被害や全従業員の感染リスクやストレスにさらされる。これは従業員の離職や受診者数の減少といった大きなマイナスを引き起こす可能性をはらむ。一度院内感染が発生すると、多数の従業員に自宅待機という名の休職を強いることになり、通常業務の一部が停止に追い込まれ、病院の売り上げが持ち直すのに数カ月要する。これらのデメリットと助成金を天秤にかけると、天秤はデメリット側に傾いたまま動かない。これがCOVID-19患者の入院を受け入れる民間病院が増えないことの揺るぎない理由となっている。つまりは、いくら政府が「十分に助成金を出す」といっても、現在の額では経営的メリットが全く足りないため、赤字に転落すれば倒産してしまう民間病院は協力したくてもできないのである。

 公的急性期病院は「7対1看護基準」が中心な中で、未だ多くの民間急性期病院は「10対1看護基準」が多いため、そもそも勤務している看護師の数が少ない。数の少ない看護師で人手が通常より多く必要になるCOVID-19患者の受け入れをするためには、COVID-19受け入れエリアの看護師だけでなく、他の病棟の看護師にも多大な協力が求められ、その負担は大きい。またCOVID-19の受け入れをしているという事実は風評被害を招き、地域の患者の不安を煽ることにより外来患者数の減少や入院患者の流出を来すことにより大きな減収を被ることになる。この減収を補填するだけの補助金や診療報酬の割り当てがないと、現実的に民間急性期病院がCOVID-19を積極的に受け入れることは負担が大きすぎる。この場合の助成金は使途を限る現行のものとは異なり、病院の判断で減収の補填や人件費に充当できるものでなくてはならない。

医療崩壊は「寸前」「懸念」なのか

 世間では、日頃元気な人がCOVID-19で肺炎になっていることばかりを想定しているが、福祉施設でクラスター感染が発生した場合は、そもそも介護度が高く、患者も手がかかったり、認知症で徘徊したりする。こうした症例には多くのスタッフの労力を奪われる。老老介護を含めて在宅介護の介護者が入院対象となると、被介護者は軽症であっても身の回りのことができず、入院せざるを得なくなることもある。このような案件ではやはりスタッフの労務は圧倒的に増える。同じ中等症でもこのような患者さんでは、コロナの病状以上に人手や時間がかかることを国も行政もメディアも考慮していない。

 「医療崩壊寸前」、「医療崩壊の懸念」と知事やメディアは発言するが、現場の我々からすると既に医療崩壊は間違いなく起こっている。コロナ患者は当該医療圏のみならず、かなり遠方の医療圏からも救急車で搬送されてきている。これは平時の救急医療ではあり得ないことであり、まさに医療崩壊である。重症なコロナ患者を受け入れるべき3次救急施設や大学病院は既にパンクしているからこそ、当院のような2次救急の一般病棟をゾーニングしたCOVID-19病床の一部で、重症者を少ないスタッフで治療し続けなくてはならない状況にある。これこそが、医療崩壊なのである。

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連載の紹介

シリーズ◎新興感染症
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する話題を中心にお届けしています。

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