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学会トピック◎第84回日本循環器学会学術集会(JCS2020)
コロナ禍を機に「デュアルモード社会」の実現を
多摩大学大学院の田坂広志氏が特別講演

多摩大学大学院の田坂広志氏

 このコロナ危機という逆境の中で、我々は何をつかむか、いかに成長するのか。いま、そのことが我々に問われている──。第84回日本循環器学会学術集会(ライブ配信、7月27日~8月2日)の特別講演で、多摩大学大学院名誉教授の田坂広志氏が発したメッセージだ。「デュアルモード社会」を提唱する田坂氏は、コロナ危機のいまこそ、感染拡大防止と社会経済活動の両立を「混乱なく実現できる社会」を目指すべきと訴えた。

 ウイズコロナ時代の学会のあり方としてオンライン開催となった第84回日本循環器学会学術集会は、7月27日からライブ配信とオンデマンド配信が始まった。7月29日の一般公開セッション「コロナ関連特別講演」では、多摩大学大学院の田坂広志氏が登壇。「パンデミックに強い『デュアルモード社会』の構築を──危機を好機に変える逆境力」と題して講演した。シンクタンク・ソフィアバンク代表でもある田坂氏は、全国6100人の経営者やリーダーが集う田坂塾を主催する一方、世界賢人会議ブダペストクラブ日本代表などを務める。第84回日本循環器学会学術集会の大会長を務める木村剛氏(京都大学)が直々に講演を依頼し実現したものだった。

 田坂氏は冒頭、「コロナ禍の今、我々が覚悟すべきことは何か」と問い掛けた。答えは「この危機は何度もやってくる」だった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第2波、第3波だけでなく、さらに新たなパンデミックも発生し得る。危機は繰り返しやっていくるという覚悟がまず、必要なのだという。

持続可能なデュアルモードへの転換を

 この覚悟のもとで「目の前の感染拡大防止とともに、今、我々が考えておくべきことは何か」。2つ目の問い掛けだ。

 田坂氏は、どのようにして、いかなるパンデミックにも耐え得る「新たな社会システム」を構築するかを考えなければならないと説く。「超感染症社会」と呼ぶべき新たな社会システムのビジョンを描き、その実現への戦略を定めることが求められていると力を込めた。

 では「超感染症社会」とは何か。田坂氏は、単に検査体制や医療体制が完備された社会ではないと前置きし、パンデミックの襲来時に感染拡大防止と社会経済活動の両立を「混乱なく実現できる社会」こそが、超感染症社会なのだと解説。それを具現化したものが、田坂氏がかねてより提唱する「デュアルモード社会」だった。

 例示したのが自動車のデュアルモード。燃費を気にせず快適に走る「スポーツモード」と燃費を最小限に抑えて走る「エコモード」が両方、備わっている。

 つまり、社会のデュアルモードとは、平常時には経済性と効率性を優先して運営する「経済モード」とパンデミック襲来時には国民の健康と安全を最優先に考えて運営する「安全モード」を指し、この「経済モード」から「安全モード」へと混乱なく円滑に切り替えることのできる社会がデュアルモード社会なのだ。ここでいう安全モードとは、例えば、飲食店におけるデリバリーやテイクアウトのサービス、教育におけるオンライン教育やEラーニングの導入、医療であればオンライン診療や薬のデリバリーのサービスなどだ。

 デュアルモード社会とは、換言すれば「New Normal」(新たな常識、新常態)が実現された社会でもある。ただし、それは、現在、政府が語る「新たな日常」「新しい生活様式」とは異なるという。なぜか。

 New Normalとは「Sustainability」(持続可能性)が大前提となる考えだからだ。社会の全ての分野で、持続可能なデュアルモードへの転換が進んだ社会こそが、真のデュアルモード社会に他ならない。

 持続可能なデュアルモードへの転換には、様々な変革が必要となる。「実はその変革の多くは、新たな変革ではなく、これまで求められていた変革が加速するだけだけだ」。こう語る田坂氏は、規制緩和はもちろん、DX(Digital Transformation)、AI革命、ロボティックス導入など、現在進行中の変革を語る上で外せないキーワードを列挙した。

 「こうしたNew Normal時代に我々が覚悟すべきことは何か」。3つ目の問い掛けだ。

 田坂氏の答えは「コロナ危機は現状変革の好機ととらえるべき」だ。例えば、医療の世界で語られる言葉に「病とは福音なり」がある。田坂氏は自らが大病したとき、この言葉に救われたことを披歴。「なぜ、この言葉が大切なのか。それは、『病とは福音なり』の覚悟こそが、真の『逆境力』を生み出すから」と語った。

 では真の「逆境力」とは何か。田坂氏が示したのは「解釈力」だった。このコロナ危機は、我々に何を教えようとしているのか? このコロナ危機において我々は、何を変えなければならないのか? こうした問いに対して自らの考えを出していくという解釈力によってこそ、「真に前向きな想念が生まれてくる」のだという。

 逃げも隠れもできないコロナ危機にあって、「不運と嘆いて後ろ向きに対処するも、好機と受け止め前を向いて歩を進めるも、同じ人生の時間」。こう語り掛ける田坂氏は、多くの人々の「人生」を預かる医療人にとって、患者さんの人生の時間、職員の人生の時間、そして自身の人生の時間を大切にしなければならないと指摘。「このコロナ危機という逆境の中で、我々は何をつかむか、いかに成長するか、いま、そのことが我々に問われている」と講演を締めくくった。

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