日経メディカルのロゴ画像

インタビュー◎新概念「CIAMS/シャムズ」を提唱した國松淳和氏に聞く
COVID-19のせいで「その人らしくなくなって」ませんか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延に際して、日ごろならば絶対にいわないようなことを突然言うようになったり、穏やかな人が急に怒りっぽくなったりと、一般人だけではなく医療従事者でも「なんだか急にその人らしくなくなった」ことを目にしてはいないだろうか。南多摩病院(東京都八王子市)総合内科の國松淳和氏は、このような現象を「CIAMS(COVID-19/Coronavirus-induced altered mental status:シャムズ)」と命名。このほど『コロナのせいにしてみよう。シャムズの話』(金原出版刊)を緊急出版した。シャムズとは何なのか、またシャムズに対してどのように対応していけばよいのか、話を伺った。


くにまつじゅんわ○2003年日本医科大学卒。国立国際医療研究センター膠原病科、同センター総合診療科を経て、2018年4月より現職。(写真:秋元 忍)

――「シャムズ」という概念を作られた経緯を教えてください。

國松 特に病名として学会や論文で提唱したわけではない。自分の個人のSNSで「こういう人がいるよね」と投稿したのが最初。私が勤める南多摩病院でもCOVID-19患者や有症状の疑い症例を受け入れていた。ところが、その中には入らない人たちの中で、つまり直接感染とは無縁にもかかわらず、攻撃的になったり、普段なら絶対に言わないようなことを言う、あるいは頑張りすぎてしまうなど、普段と様子の異なる患者、そして医療従事者を見かけるようになっていた。繰り返すが直接新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と接していないにもかかわらず、具合が悪くなっていたのだ。

 実は、「その人らしくなくなる」という現象はSARS-CoV-2まん延下だけではなく、以前から見られるものだ。不定愁訴を訴える患者に実は身体疾患があったケースを思い起こしてもらうと理解しやすいだろう。精神科医であり、週に1日内科外来もしている慶応義塾大学精神科の尾久守侑氏と、「精神的加重という病態生理に注目しておこう」といった議論を日ごろよりしてきた。精神的加重とは、身体疾患があると転換性の症状が出現しやすくなる現象のこと。これがSARS-CoV-2感染への不安などで引き起こされている場合、精神や意識、認知機能などの脳機能が不調となり、身体の症状に転換していたというわけだ。それを私がシャムズと名付けた。シャムズの本質は、広義には精神的加重なのだと思う。そのように整理するとふに落ちることが多く、当初は冗談半分でシャムズという言葉を使っていたが、意外に周囲に受けいれられた。

『コロナのせいにしてみよう。シャムズの話』(金原出版、2020)

 多くの人が自粛で周りの人に声をかけることがなくなり、会話がなくなったことで、ひそかに具合が悪くなってしまっている。シャムズは病気ではないし、シャムズにならないようにしようというものではない。シャムズが「誰であっても認識できるもの」と考えてもらい、「とにかく周りに声をかけよう」というメッセージを込めた。このような考え方を広めることで一般の方が安心すれば、前線で頑張っている医療者の仕事の負担も減らせるのではないか。

 例えばCOVID-19を心配して発熱外来を受診した人に、「あなたはCOVID-19と接触してないし、症状もない。でも、心配なんですね」と時間をかけて伝えようとしても、そもそも個人防護具(PPE)やN95マスクを付けた状態ではそれは困難。発熱外来ではないところで皆に安心してもらう必要がある。そのためには一般の人が、一般の人同士でいやし合ってもらうのが一番。そのために知るべきなのがこの「シャムズ」という考え。これによって不必要な受診が減り、COVID-19診療の最前線で働く医療者の負担を減ずることもできるはず。これが私流の広域ノーマライゼーションである。


――この本の執筆は国立国際医療研究センターの忽那賢志先生の薦めもあったとか。


國松 忽那氏が、SARS-CoV-2に感染しているわけでもないのに不定愁訴を訴えたり具合が悪くなっている人や、他者に不寛容になっている医療者への対応に苦慮しているのを聞いた。忽那氏のような最前線でCOVID-19と対峙している医療者を和らげたかったというのも執筆の動機だ。書籍ではシャムズを(1)狭義・通常型、(2)広義・通常型(3)疲労・倦怠型(4)過活動型(5)亜型――と5分類に類型化したが、これも遊び。シャムズを認識して、むしろ笑い飛ばしてほしいという思いがある。

 ゴールデンウイーク前に出版社の担当者と話していたところ、とんとん拍子に話が進んで仕事合間などを使って4日間で書き上げてしまった。書きたかったことがはっきりしていたからだ。

――先生ご自身はシャムズにならなかったのでしょうか?

國松 私は恵まれていたと思う。新型コロナウイルスが流行したといっても上司は全く動じなかったし、私も普段通り診療できた。不安なく、通常通りにしている人の存在は、周囲の人を安心させる。おそらく私と接している後輩たちも普段通り診療できたのではないか。あと私が定期的に診ている患者も。また、シャムズの考え方を知っていたことで、楽になれた。シャムズという考え方はCOVID-19の第2波が起こったときにも同様に使えると思っている。

――シャムズは認識されないままでいると、どうなってしまうのでしょうか。

國松 最悪の終末像はうつ病による自殺。シャムズの中でも過剰適応が過ぎた場合に起きることもあると考えているが、過剰適応は真面目な医療者に生じやすい。適応自体は、場に対応する機制なので健全だが、こじらせるとうつ病になりかねない。医療者のシャムズの認識も重要だ。元気そうに、活動的に頑張っている「あの医療者」が、実は過剰適応あるいは抑うつ気分で占められてしまっているかもしれない。そこで「声かけ」や「雑談」が重要になってくる。そのことはこの本の中でも繰り返し強調した。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ