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インタビュー◎永寿総合病院の廣橋猛氏に聞く
テレビ電話面会は終末期医療の新たな選択肢
COVID-19治療病棟での使用も検討できるはず

 コロナ禍で家族と会えない終末期医療の現場にテレビ電話面会を──。こう呼びかけたクラウドファンディングに、わずか2日間で800万円を超す支援金が集まった。反響の大きさに、プロジェクトの代表を務める永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛氏は「感謝と喜びでいっぱい。責任の重さに身の引き締まる思い」と話す。テレビ電話面会が終末期医療の新たな選択肢となる可能性が、大きく膨らんでいる。

── わずか半日で、当初目標としていた300万円を超えました。5月17日時点では853人から支援があり、既に800万円を超える寄付が集まっています。この事実をどのように受け止めていますか(写真1。プロジェクトのクラウドファンディングはこちら)。

写真1 「終末期医療の現場にテレビ電話面会を広めるプロジェクト」のクラウドファンディングの画面

プロジェクト代表の廣橋猛氏

廣橋 医療関係者にとどまらず、一般の方々からもご支援いただいています。本当にありがたいです。感謝と喜びでいっぱいですし、責任の重さに身が引き締まる思いです。

── この反響の大きさは予想していましたか。

廣橋 第一目標は何とかクリアできると思っていたのですが、こんなに早く達成するとは正直驚いています。当初は医療関係者を中心に支援していただけるだろうと見込んでいましたが、クラウドファンディングの開始直後から一般の方からのご支援が続いています。最期を見届けられずつらい思いをしたという方々からも賛同の声が届いています。終末期の患者さんが家族に会えることの大切さを感じている方々がとても多いのだ、ということだと思います。

── 「終末期医療の現場にテレビ電話面会を広めるプロジェクト」を立ち上げた経緯をお話しください。

写真2 『素敵なご臨終』(PHP新書、2018年)

廣橋 ご承知の通り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって、ほとんどの病院は入院患者と家族との面会を中止せざるを得ませんでした。私は、家族や友人だからこそできる緩和ケアがあると思っています。患者さんがつらいときに、家族だからこそできることがあるのです。病床でマッサージをしてあげるとか、頑張っている患者さんに「もっと頑張って」と言わないとか、医師と相談して思い出の地へ旅行に連れて行ってあげるとか……(具体的に何ができるかは『素敵なご臨終』(PHP新書、2018年、写真2)にまとめてありますので参照してください)。もちろん、そばにいるだけで、顔を見せるだけで、患者さんのつらさは和らぐのです。それが、COVID-19のために、患者さんは家族と会えなくなってしまったのです。何とかしなければと思いました。

── どうしてタブレットによる面会に行きついたのでしょう。

廣橋 プロジェクトの紹介欄でも記しましたが、きっかけは高齢の夫婦でした。奥さんが末期がんのために入院されていました。家族は夫しかおらず、自宅での看病は難しいからと、面会できないことを了解の上での入院しました。患者さんは体力が弱っていて、声もかすれてほとんどでない。しかも持っておられる携帯電話はガラケーのみ。電話してもほとんど会話できないので、看護師がショートメールでメッセージのやり取りをすることしかできませんでした。そこで、私費を投じて用意したタブレットを用いてテレビ電話面会を行いました。すると、まず夫が「うわー、顔が見れた。嬉しい」と喜んでくれました。そして入院中の奥さんもうまく声は出せないものの、それまで沈んでいた表情が一変し笑顔を取り戻したのです。電話を切るときも、一生懸命に手を振って「また今度ね」と必死に伝えていました。

 私はこれだと確信しました。もちろん直接面会できるようになるのがベストです。でも、おそらく感染予防という意味では数カ月、もしかしたら数年は難しいかもしれません。それならば、全国の終末期医療の現場でこのテレビ電話面会を普及させたいと考えたのです。

── プロジェクトの目的をご説明ください。

廣橋 緩和ケア病棟などに入院する患者さんや家族が使用するためのタブレットを30台以上購入して寄贈し、医療従事者だけでは取り除けない患者さんのつらさを緩和することです。入院される方は高齢の方も多いですから、スマートフォンを使えない方や、小さい画面だと見えない方もいらっしゃるので、大きい画面のタブレットを使用します。また、病棟の中にWi-Fi環境がない施設もあるため、SIMカードが使用できる機種にする予定です。テレビ電話で用いるアプリとしては、LINEもしくはSkypeを使用する方向です。また、家族の中にはスマートフォンを持っていない方もいらっしゃるため、家族に別の場所で使用してもらうため貸し出す用途も想定しています。

── タブレットで良かった点はありますか。

廣橋 これまで何例か手掛けていますが、1つの画面に、家族だけでなく遠くの親戚の方や友人の顔を並べて表示することもできます。時間さえ調整できれば、多くの人と同時に面会できるのです。実際の入院現場ではなかなか実現できないことが、テレビ電話面会では可能になります。今はコロナ禍の非常時における対応なわけですが、日常が戻って来たときも、テレビ電話による面会は、全国の終末期医療の現場で通常のケアの一環として続いていくと思っています。

── プロジェクトの今後の展開についてお話ください。

廣橋 1000万円を達成すれば、約80施設に各施設の必要性に応じて1~2台のタブレットを配布できます。具体的な費用としては、タブレット端末やSIMカードの購入費、テレビ電話面会のマニュアル作成費、テレビ電話面会に関連する研究費用、支援者へのリターンに関わる費用、その他事務局運用に必要な経費です。多くの支援が集まれば、その分配布施設を増やすことができます。さらに、緩和ケア病棟以外で終末期医療を行っている施設や、COVID-19治療病棟での使用も検討できるはずです。テレビ電話面会には、普通の面会では得られないかもしれない多くの可能性を秘めています。

(5月17日収録。5月19日時点で1000万円を達成しています)

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