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緊急寄稿◎現場を混乱させる学会のガイドライン
院内感染は責められるべきではない
無症状の人にPCR検査をすべきではない理由

2020/04/17
岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科准教授)

 新型コロナウイルス感染症COVID-19)の感染が拡大する中、医療機関はパニックが続いている。無理もない。感染者が出てしまうと、病院の診療が停止してしまう状況に陥るからだ。

 特に高度医療を担う大病院で感染者が出ると大問題だ。緊急で手術や処置が必要な急性腹症、心筋梗塞、脳卒中などの疾病は定まった治療のないCOVID-19よりも致死率が高い一方、至急に適切な治療を施すことができれば予後に大きな良い影響がある。その治療ができなくなる。

 いわゆる医療崩壊である。

 各医療機関は地域の医療、その医療機関が担うべき医療を提供できるように何とか踏みとどまりたいと必死だ。そのため、各診療科は、「自分の診療科の患者さんに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査をやってほしい。症状がなくてもしてほしい」ということになる。

 しかしながら、検査を出したり、見かけ上の検査陰性が出ることによって心理的な安心は得られるかもしれないが、陰性だからといって可能性を除外できるほどCOVID-19のPCR検査は精度が高いとは考えられていない。3回検査してようやく陽性になったり(CID,29 February 2020)、肺炎があった患者ですら、初期には陰性で、のちに陽性になることがあるのだ(Radiology2020;PMID32049601)(Radiology2020;PMID32049601)。もちろん、無症状の患者からSARS-CoV-2ウイルスが検出されることも報告されている。しかし、咳がある患者と比べ、それを飛散し伝染するリスクは低い。無症候ウイルス保有者がどれだけの感染源となるのかは現時点でよく分かっていないのが実情である。

 つまり、それなりに流行がまん延している状況ならば、無症状者を検査して陰性でも、手術や処置をするときには感染者と同様の感染予防策の実施が必要となる。検査陰性の結果に安心してしまって予防策が不徹底になる方が感染拡大のリスクとなり得るからだ。実際、多くの院内感染は腹痛など予期しない症状の感染から起きている。しかも感染防護具(PPE)は底を突こうとしている。故に地域にCOVID-19がまん延しているならば、緊急性が低い手術は延期をせざるを得ない。

 緊急性のある手術、処置ならば、延期するわけには行かず、しかるべき感染予防策を実施してやるしかない。その際もPCR検査の結果を待つことはあまり賛成しない。緊急性が高い手術が遅れてしまうし、そもそもPCR陰性は感染性がないことを保証しないのだ。もちろん緊急手術の際に、説明の付かない咳や発熱などCOVID-19を疑う症状があれば、PCR検査を行い、胸部画像診断を評価してから判断して良いだろう。しかし、待つ時間すらないならば、同様にしかるべき感染予防策の下で手術をすることに変わらないのである。

 この見解は、日本医学会連合と日本外科学会など外科系学会12学会の提言に近いものとなっている。

 問題は、一方でいくつかの外科系学会が独自の指針を示し、現場の混乱を招いていることだ。中には全例でPCRや画像診断を勧めるものもあるようだ。世界的な危機だからこそ、各学会が独自の方針で動くのではなく、信頼できる感染症専門医、感染制御の専門医を複数交えて、整合性のある指針を出していただけないだろうか。

 そもそも無症状の人にPCR検査をするというのは、無症状とはいえ検査対象者の中に陽性者がいる想定である。検体を採取する際に採取者はPPEを使用する必要があるし、採取者が曝露して感染するリスクもある。PPEが不足している状況で検査すべきなのかもう一度慎重に冷静に考えてほしい。仮にPCR検査が拡大されても、検査のキャパシティーには上限があり、有症状者のPCR検査がかえって出せなくなってしまえば本末転倒である。

院内感染も責められるべきではない

 また、一般の方や報道機関にもお願いしたいことがある。院内感染を、中身の評価なしに医療機関を責めるように捉えられる報道を控えて欲しい。

 院内でSARS-CoV-2感染者が発生してしまうこと自体を悪としてはならない。このウイルスは潜伏期が長めであり、無症状の場合もある。熱も必ずしも初期には出ない。そして繰り返すがPCR検査の限界がある。つまり、感染者を100%院内に入れないことは不可能なのだ。

 もはや各医療機関は、院内で感染者が出ることは想定済みでなければならない。まん延期であれば、常に院内に感染者がいる前提のもとで、各職員がしかるべき感染予防策を行い、感染を防止しなければならない。もし職員が感染してしまった場合にはそれを他の職員や患者に伝播させないよう予防策を講じなければならない。ここに不手際があったときに初めて、医療機関の責任が問われるべきなのだ。

 もっとも、ここで問題になるのが、マスク、アイシールド、ガウンなどPPEやアルコール消毒薬の枯渇である。しっかりとした感染予防策を行おうにも、現場に物資がないのである。故に軽症者は受診を控えて欲しいし、無症状者の検査希望も遠慮願いたい。軽症や無症状でも医療従事者は然るべく感染予防策を取らねばならず、資源が消費されてしまう。

 また、一般の人にはサージカルマスクの着用は必須ではない。COVID-19の出現以来、症状のない人がマスクを着用すべきか議論されるようになった。米疾病対策センター(CDC)も、当初「マスクは不要」としていたスタンスを変え、社会的な距離を取れない場合には布マスクの着用を推奨し始めた。だが、ここで注意していただきたいのは、着用が求められているのは布マスクであり、サージカルマスクではないのだ。これは医療機関でのサージカルマスクの枯渇を懸念したものである。

 現時点で実際の布マスクの効果は不透明ではある。だがわが国でもぜひ国から配布されたマスクを着用して医療機関のサージカルマスク枯渇を防ぎ、医療従事者の感染や、院内での感染拡大が起きて医療崩壊が発生しないようにご理解ご協力を頂きたい。

【参考文献】
1) 岡秀昭、『感染症プラチナマニュアル 2020 番外編』新型コロナウイルス2019(COVID-19)(3/19更新)  https://www.medsi.co.jp/pdf/covid-19_200319.pdf

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