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緊急寄稿◎東京の地域医療の現場から
感染拡大防ぐため外来閉鎖、訪問診療も半数に
在宅の新型コロナ疑い患者のPCR検体採取は1人で対応

2020/04/15
英 裕雄(新宿ヒロクリニック)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、緊急事態宣言も発令された中、地域医療の現場では苦しい対応を迫られている。東京都新宿区を中心に訪問診療や癌緩和治療を積極的に手掛ける新宿ヒロクリニック(東京都新宿区)院長の英裕雄氏に、地域医療の従事者が直面している状況をリポートしてもらった。(日経ヘルスケア編集部)


はなぶさ・ひろお氏。千葉大医学部卒。浦和市立病院(現さいたま市立病院)で研修後、1996年に曙橋内科クリニックを開業。2001年に新宿ヒロクリニックを開業。

 4月7日に緊急事態宣言が出る以前から様々な事業者が営業を自粛していますが、当院は4月13日から外来を2週間閉鎖することにしました。高齢の患者さんの外出機会を減らすとともに、院内感染を継続的に防ぐ体制を強化するためです。情勢によっては、外来の閉鎖をさらに延長することもあり得るでしょう。なお、処置の継続がどうしても必要な方には、個別に相談してもらって対応しています。

 当院は訪問診療を行う医療機関が大変少なかった時代から、東京都新宿区を中心に訪問診療を実施してきました。訪問診療に特化した医師、看護師、リハビリスタッフが高度なチーム医療を提供することで、難病や癌の患者さんの自宅療養を支えてきました。その訪問診療についても、現在は定期の訪問をできる限り減らしています。高齢者など在宅の患者さんに我々がCOVID-19を持ち込む可能性を下げるためで、訪問件数を半数以下にする方針で検討を進めており、出勤する職員も減らしています。

 診療所のスタッフは一般出勤者、在宅勤務者、感染対応専門者に分けて、私は感染対応専門チームを担っています。それぞれが接触することのないよう工夫し、どこかが崩れても他が何とかカバーできる体制を作りつつあります。

当院の患者からもCOVID-19陽性第1号

 こうした体制で現状への対応を進める中、4月9日には往診している患者さんのCOVID-19の陽性が判明しました。外来と在宅を通じて当院の患者さんから陽性者が出たのは初のケースです。

 この患者さんは85歳男性で、元々は当院の患者ではありませんでした。3月末ごろから急に体調を崩して食欲も低下し、4月4日に都立病院(感染症指定医療機関ではない)を受診。この病院でPCR検査を施行しましたが、入院はできないということで自宅療養されていました。

 しかし、PCR検査の結果を待つ間、状態はどんどん悪化。同居の息子さんがひどく心配して、かかりつけの医師に相談するも対応できず、保健所を通じて当院に往診の依頼が来ました。初診に訪れた後、もう一度点滴で伺い、9日に陽性が判明しました。

 患者さん宅に入室したのは、個人用防護具(PPE)で完全武装した私のみ。スタッフは全く入室しなかったので、当院から濃厚接触者は発生しませんでした(保健所に確認済み)。

 この患者さんは元々、とても元気で活動的だったとのこと。いわゆる元気高齢者もCOVID-19に感染した場合のリスクは高いことを実感しました。

 陽性が判明したこの患者さんの入院先を保健所は必死で探したようですが、判明の当日に入院先を確保することはできませんでした。その翌日、他の都立病院に入院できましたが、4月14日時点では重症となっているそうです。また、同居する3人の家族のうち1人の方も発症し、他の人に感染させないよう、ハラハラした生活を送っています。

受診できない高齢者は地域にあふれている

 若年成人、一般成人から元気高齢者へと、感染の輪は広がっており、しかも感染ルートが分からない感染例が増えています。今後は、虚弱高齢者に感染が広がることを警戒しなければなりません。

 COVID-19で重症化しやすいのは、基礎疾患を持った人、高齢者といわれています。その両方がそろう在宅高齢者が感染すれば、大変危険な状況に陥ります。さらに、そこに出入りしている在宅ケアのスタッフの濃密な関わり方を見ていると、感染拡大の歯止めが利かなくなる恐れがあります。

 東京で地域医療を行うスタッフは、様々なレベルのCOVID-19感染者と接触するリスクを負っています。

・感染しながらも無症状の人(放置レベル)→街で接触?
・症状が出ていながらも社会生活をされている人(外来レベル)→外来で接触?
・かなり症状が強いのでPCR検査を行い、検査の結果が出るまで自宅療養している人(自宅待機レベル)→保健所からの要請で往診で接触?
・PCR検査陽性で症状も強いが、入院できない人(感染者・自宅待機レベル)→保健所からの要請で往診で接触?
・PCR検査陽性で症状が軽く、入院ではなくホテルなどで療養している人(感染者・ホテル待機レベル)→保健所からの要請で往診で接触?

PCR検査の検体を採取する筆者。症状を自覚してホテルに自主待機した方を往診した。

 こうした人たちが地域で生活されている中で、私たち地域医療従事者も感染者との接触から逃れられるとは思えません。先の患者さんのようにPCR検査だけ受けて自宅療養を続ける高齢者はたくさんいます。さらに、胸痛と発熱で60カ所以上の医療機関に電話しても受診を断られた80歳代男性、病院の入口まで何度行っても入れてもらえなかった80歳代女性──。地域にはこうした高齢者があふれています。病院の中の方がまだ安全かもしれないと思えるほどです。

 ちなみに、私はこれまで在宅で4例、PCR検査の検体を採取しました。そのうち1例だけは区の職員(保健所スタッフが手いっぱいのため)が同席してくれましたが、基本的には、保健所にPPEやキットを取りに行って、自分1人で検体を採取し、保健所に持ち込んでいます。

 こうした診療ニーズが日増しに増える中、どこまで地域と向き合うのか? どこまでスタッフと自身の安全を守るのか? 緊急事態宣言の下、地域医療者としての姿勢が大きく問われています。

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