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緊急寄稿◎岩手県は本当に新型コロナウイルス感染者ゼロなのか…
緊張続く診療所の現場、顔にラップ巻き診察も
増える「コロナ疎開」、感染例の出現も時間の問題か

2020/04/12
鈴木利久(医療法人こたろう会・西大通り耳鼻咽喉科医院院長)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全国に広がる中、まだ感染例が唯一報告されていない岩手県(4月11日時点)。だが、医療の現場では想像以上に緊迫した状況が続いている。医療法人こたろう会・西大通り耳鼻咽喉科医院(岩手県花巻市)の院長の鈴木利久氏に、緊張感を強いられている日々の診療をリポートしてもらった。(日経ヘルスケア編集部)

患者減少につながって大打撃に

鈴木利久氏。千葉県生まれ、山形大医学部卒、山形県立新庄病院、三友堂病院(山形県米沢市)、岩手県立花巻厚生病院(現・岩手県立中部病院)などでの勤務を経て、1999年開業

 岩手県は、新型コロナウイルス感染症COVID-19)の報告例が全国でまだ唯一ない県です。しかしながら、かかりつけ医機能を担う医療現場、一介の耳鼻咽喉科開業医である私にとりましても、切実な問題に直面しております。

 一般の方々にはあまり知られていませんが、耳鼻咽喉科はCOVID-19拡大のリスクの高い診療科です。その理由の1つには、専門的になりますが、鼻、のどの処置、ネブライザーおよび内視鏡検査エアロゾルの発生を促し、感染拡大を来すことにあります。万一、後に当該患者さんがCOVID-19と判明した場合には、その処置や内視鏡検査を行った医師は濃厚接触者となり、場合によっては2週間の就業制限となる(すなわち診療できなくなる)恐れがあります。さらに、判明するまでに診療した患者さんの健康調査等、甚大な負担を被ります。

 日本耳鼻咽喉科学会からは、感染が否定できない患者には一定期間、ネブライザー療法は控える、また内視鏡検査を実施する場合には、適切な個人防護具を装用するようにとの勧告がなされています。強制力はないものの、COVID-19拡大が日本全国にわたり着実に勢いを増して進行している現在、耳鼻咽喉科開業医も感染を想定して、最も頻回に行われる処置・検査であるネブライザー療法、内視鏡検査を回避せざるを得ません。

 こうした状況では、耳鼻咽喉科としての専門性を生かせず、患者さんの不満も重なって来院数の減少につながり、大打撃となっています。せめて前向きにとらえ、「受診抑制がクラスター発生を抑えることにつながっているのでは」と考えるようにしています。

問い合わせてもすぐにPCR検査の実施とはいかず

 COVID-19の初発症状は、発熱、のどの痛み、せき、および全身倦怠感等のいわゆる感冒様症状、さらに嗅覚障害、味覚障害ですので、これら症状を訴える患者さんが日常の耳鼻咽喉科外来を受診することが十分にあります。

 当院では、発熱等感冒様症状で来院される方は前もって携帯電話で連絡をいただくようにして、その病歴をおおよそ把握します。さらに、症状ごとの独自の対応マニュアルも作成し、これまでに何度も更新を重ねてきました。来院されても車で待機していただき、看護師が携帯電話で問診し、保健所帰国者・接触者相談センターに連絡した方がよいと判断した場合は患者さんにその旨を説明します。その後、看護師が車のウインドウ越しに全身状態を確認します。しかしながら、保健所のマンパワーの不足、仕事量の膨大さで、問い合わせてもすぐにPCR検査の実施とはいかず、「医療機関を受診してください」と言われ、結局は開業医を受診する患者も少なくないようです(岩手県のPCR検査数の絶対的少なさが、何を物語っているかご想像していただければと思います)。

 COVID-19の疑いがある方と他の患者さんやスタッフとの接触を避けるため、当院のホームページや玄関の外に、「発熱やのどの痛み、急ににおいや味がしなくなった方は、まず電話かインターフォンを押してください」と告知や掲示をしてあるものの、普通に院内に入ってくる発熱患者さんもいます。そのため、来院患者全員に非接触型の体温計で検温して熱がないことを確認して通常の受付をしますが、受付スタッフのストレスは相当なものです。

神経を擦り減らして診療に当たる

 看護師の携帯電話による問診の後、発熱が数日続くなどCOVID-19が否定できない場合には、私自身が手袋、フェイスシールドおよび防護服着用の上、車に赴き簡単に診察します。COVID-19の疑いがなく、明らかに耳鼻科疾患の場合は、院内に改めて入っていただき診療を行います。その際にも、患者さんにはマスクを着用、さらにディスポーザブルの手袋をはめてもらい、他の患者さんとの接触を避ける動線で動いていただきます。もし疑いがあれば、帰国者・接触者相談センタ―等に連絡していただきます。かなり神経を擦り減らして診療に当たり、ストレスを感じます。

手袋、フェイスシールド、防護服を着用(左)し、患者の車に赴いて診察(右)

手作りのフェイスシールド

 さらに、当地域でもマスク、消毒液の不足で欠品が続く上、防護服やフェイスシールドは手に入りません。代用の物や手作りで対応していますが、耳鼻科医が頭に装着するヘッドランプがフェイスシールドを付けた際になかなかうまく合いません。最初の症例ではヘッドランプを付けた上に、私の顔や頭をラップで覆って診察するという状況になりました(窒息注意)。

 現在は、緊急事態宣言が発令された地域からの「コロナ疎開」と帰省してくる学生が増えており、先日も首都圏からの深夜高速バスから続々と人が盛岡駅前に降りてくる様子が報道されていました。達増拓也岩手県知事が緊急事態宣言の対象となった地域の住民に、「他地域への往来を控えるようにお願いしたい」と来県自粛を呼び掛けたにもかかわらず、です。岩手県内は新幹線の停車駅も7カ所あり、このところ県外ナンバーの自家用車もよく見るようになり、COVID-19の発生も時間の問題と思われます。

受付カウンターにはビニールシートを設置

 当院スタッフも、「どんな患者さんが来るか分からず、怖いです」と口にしており、出勤を拒否する人が出かねないと危惧しています。また、スタッフも県外への外出を自粛。毎朝の検温と手洗い、マスク着用はもちろん、「化粧をした上からでもスプレーできる」ウイルスブロックスプレーをかけて勤務に入っています。ウイルスブロックスプレーの効果は定かではありませんが、私どもなりに「やっていればスタッフも安心できる物」を用意しています。

受付カウンターに設置したビニールシート

 来院する全患者さんにマスク着用をお願いしていますが、マスクの不足や「付けるのが嫌いだ」とおっしゃる方もいますので、受付カウンターにはビニールシートを設置しました。カウンターの上がオープンスペースで、天井が勾配であることから、「突っ張り棒」や「カーテンレール」を取り付けることができず、苦肉の策でホームセンターでロープスタンドを買ってきて対応しました。現在、店舗用のポップスタンドを注文中で、それを使えばもう少し見栄えの良いものになるかと思います。

 「関東の最前線で未知の、さらに治療法も確立していないCOVID-19と闘っている医療従事者を思えば、まだ自分は楽をしているのではないか」と戒めて診療に従事しています。そして、COVID-19の早期終息と、このまま岩手県の感染例ゼロが続くことを祈っています。

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