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1分解説◎7都府県で緊急事態宣言が発令
緊急事態宣言で医療は何が変わる?

写真1 緊急事態宣言発令後に記者会見に臨む安倍晋三総理大臣
出典:首相官邸YouTubeチャンネル(2020年4月7日に利用)

 新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、安倍晋三総理大臣は4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言を行った。対象は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。期間は4月8日から5月6日までの約1カ月とした。

 緊急事態宣言によって新型コロナウイルス感染症への医療体制はどのように変わるのか。そもそも、日本の特措法では、外出自粛の要請に従わない人への罰則を科すことはできず、諸外国で実施されているロックダウン(都市封鎖)の状況にはならない。ただし、都道府県知事は感染拡大を防ぐために、(1)医療機関開設のための土地、建物、物資の強制使用、(2)医薬品や食料などの売り渡し要請や収用──といった強い権限を行使することができるようになる(表1)。

表1 緊急事態宣言で都道府県知事ができること(特措法で定められた内容)

○医師、看護師などに対して、場所や期間などを明示した上で、新型コロナウイルス感染症の患者または疑い患者などに対する医療を行うよう要請(応じない場合は、しかるべき手続きを踏んだ上で強制力のある「指示」も可能)
○医療の確保や、医薬品・医療機器の収用、確保などの命令
○臨時医療機関(消防法、建築基準法、医療法などの適用除外)の開設と使用
○臨時医療機関を開設するための土地、建物、物資の強制使用
○自治体間における物資および資材の融通や供給の要請
○メーカー、卸などに対する医薬品・食品など特定物資の売り渡し要請や収用
○生活維持に必要な場合を除く、外出自粛の要請
○興行施設などにおけるイベント開催の停止要請・指示
○予防接種の臨時的な実施
○土地・建物、医薬品・食品の収用などに対する損失補填(義務)
○患者に対する医療を行うよう要請・指示された医師、看護師などが死亡、負傷した場合の損害補償(義務)

 8日からの緊急事態宣言を受け、各都府県知事は、政府の全般的な方針を盛り込んだ「基本的対処方針」を踏まえて、具体的な取り組みを実施していく。

 7日に改正された政府の基本的対処方針では、医療体制について、(1)入院治療が必要のない軽症者などは自宅療養とし、医師が必要と判断した場合にはオンライン診療を行う体制を整備する、(2)がん専門病院や産婦人科など、重症化しやすい人が来院する医療機関は、新型コロナウイルスの感染が疑われる人の外来診療を原則行わないようにする、(3)延期が可能と考えられる予定手術や予定入院の延期を検討する──ことなどが盛り込まれた(表2)。

表2 政府「基本的対処方針」の医療に関する主な内容

○軽症者は自宅療養とし、遠隔で健康状態を把握するとともに、医師が必要とした場合にはオンライン診療を行う体制を整備する
○軽症者が宿泊施設などでの療養を行うことや、同居家族が一時的に別の場所に滞在することなど、家族内感染のリスクを下げるための取り組みを講じる
○まずは帰国者・接触者相談センターの体制を強化し、感染疑い患者の検査・診療を行う。患者数が増え、限度を超える恐れが出てきた都道府県では、必要な感染予防策を講じた上で、一般の医療機関での外来診療を行う
○症状が軽度な場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、かかりつけ医などに相談した上で、受診するよう周知する
○新型コロナウイルス感染症の患者を集約して優先的に受け入れる医療機関の指定などを行う
○医師の判断により延期が可能と考えられる予定手術や予定入院の延期を検討する
○地域の診療所など一般の医療機関に勤務している医療従事者の派遣を検討する
○がんセンター、透析医療機関、産科医療機関などは、必要に応じて、新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる人への外来診療を原則行わない医療機関として設定する
○医療機関や高齢者施設などでは、面会は緊急の場合を除き一時中止する。入院患者・利用者の外出、外泊も制限する
○新型コロナウイルス感染症を疑う患者にPCR検査や入院医療を提供する医療機関などに対して、マスクなどの個人防護具を優先的に確保する

東京都:軽症者をホテルに移し遠隔管理

 東京都では緊急事態宣言に先立って、6日に小池百合子知事が会見し、今後の医療提供体制について言及。軽症者をホテルなどの宿泊施設に移す考えを示し、7日にも入院中の患者の移送を始めた。宿泊施設では、患者本人に体温やSpO2の測定をさせ、テレビ電話システムを用いて健康管理を行う(関連記事:東京都医師会が緊急事態宣言後の対応を説明)。こうした「宿泊療養」の場所として、1000室規模の確保を目指している。

 また、6日には医療提供体制の拡充に向けて総額232億円の補正予算を組むことを発表。宿泊療養施設の確保(補正予算のうち65億円)のほか、集中治療室などで治療に当たる医療従事者の確保支援(67億円)、中等症以上の患者の受け入れに使用する4000床(重篤者や重症患者向けの病床700床を含む)の確保に向けた空床確保料の補助(45億円)などを盛り込んでいる。このほか、新型コロナ外来(帰国者・接触者外来)の受入体制強化(8億円)や、PCR検査等体制の充実(8億円)なども行う。

大阪府:法に基づいた外出自粛要請

 大阪府の吉村洋文知事は4月6日に記者会見し、政府が新型コロナウイルスの緊急事態宣言を発令した場合、特措法に基づき、府民に外出自粛を強く要請する考えを明らかにした。7日夜に行われた府の対策本部会議では今後の方針を検討。保育所や高齢者施設などを除いた施設の使用制限や停止の要請を検討する考えだ。また既に、東京都と同様、軽症者をホテルなどの宿泊施設に移送する計画も示している。

 府では3月26日に総額74億円の補正予算を編成。感染患者向けの病床として、現在確保している400床を1000床に段階的に増やしていく考えを示している。このほか、医療費やPCR検査の公費負担のために39億円を確保した。緊急事態措置について府民・事業者からの問い合わせに応えるため、7日には府庁内にコールセンターも設置した。

土地・建物の強制使用には消極的

 緊急事態宣言の対象となった他の県の知事も概ね、緊急事態宣言の発令によって住民への外出自粛要請に法的根拠が生じることを歓迎しており、改めて住民に外出自粛を要請する考えだ。マスクや防護服を中心とした感染防御に用いる物品が医療機関で不足していることを受けて、特措法に基づき、メーカーや卸への売り渡し要請、または収用を行う動きも今後出てくるとみられる。一方、医療機関開設のための土地、建物、物資の強制使用に対しては、現時点では消極的な考えを示す知事が多い。

 政府は経済対策として108兆円規模の財政措置を検討している。家計にダメージを受けた世帯や低所得者向けに1世帯あたり30万円の給付や、税金や社会保険料の支払い猶予などの施策が主軸だが、新型コロナウイルス感染症に対する医療体制の強化としては、PCR検査体制の1日2万件への倍増や、感染患者を受け入れられる病床の確保(2万8000床から5万床)、人工呼吸器の確保や増産、軽症者が滞在できる施設の確保などを掲げている。治療薬やワクチンなどの研究開発では、ファビピラビル(商品名アビガン)を増産し、国内備蓄を70万人分から200万人分まで増やす考えだ。


【関連記事】
2013年に新型インフルエンザ等対策特別措置法が施行される直前の解説記事:「外出自粛が要請された地域では職場に行くことができなくなる?」はこちら

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