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インタビュー◎ウイルスの構造とその意味
そもそもウイルスってどんなものでしたっけ?
京都大学ウイルス・再生医科学研究所RNAウイルス分野教授の朝長啓造氏に聞く

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)が広がり、世界中が対応に追われている。このSARS-CoV-2はコロナウイルス科の一種で、プラス 1本鎖RNAウイルスに分類される。ウイルスの分類や構造、増殖の仕方などについて、長年、RNAウイルスの研究に携わっている京都大学ウイルス・再生医科学研究所ウイルス感染研究部門RNAウイルス分野教授の朝長啓造氏に話を聞いた。


──ウイルスにはDNAかRNAか、1本鎖か2本鎖か、といったゲノム本体の違いのほか、エンベロープの有無などの違いがありますが、こうした違いはウイルスにとってどんな意味があるのでしょうか。

朝長啓造氏〇1994年東京大学農学研究科修了、95年ボストン・タフツ大学、98年北海道大学免疫化学研究所助手、99年大阪大学微生物病研究所助手、2000年大阪大学微生物病研究所助教授などを経て現職。12年から京都大学ウイルス研究所(現ウイルス・再生医科学研究所)附属感染症
モデル研究センター・センター長

朝長 そのとおり、ウイルスは核酸の形状と増殖機構に基づいて7つに分類されています。もともと逆転写酵素の発見者のひとりが提唱したもので、彼の名前に基づいてボルティモア分類と呼ばれていますが、これが基礎となって International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類が作られています。

 7つの分類は、(1)2本鎖DNA、(2)1本鎖DNA、(3)2本鎖RNA、(4)1本鎖RNAプラス鎖、(5)1本鎖RNAマイナス鎖、(6)1本鎖RNA逆転写、(7)2本鎖DNA逆転写――です(表参照)。

 DNAウイルスのゲノムはその名の通りDNAであり、多くの場合、細胞の中の核に移行して宿主のDNA複製酵素(DNAポリメラーゼ)を使って自らのDNAを増やします(複製する)。複製の酵素を宿主の仕組みに依存していると言えるでしょう。一方、RNAウイルスのゲノム本体はRNAですが、RNAを鋳型としてRNAを作る酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)は宿主が持っていないため、ウイルスはそれを作り出す配列情報を自ら持っています。この配列情報に基づいてRNAポリメラーゼが宿主細胞内で作られ、これを使って複製します。RNAウイルスの多くは細胞質で複製しています。例外は、インフルエンザウイルスなど一部です。

表 International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類と代表的なウイルス

2本鎖DNAウイルス
◎感染すると多くの場合細胞の核に移行し、宿主の複製機構を使って増える。宿主のRNAポリメラーゼを使ってmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生する。
◆アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、EBウイルス

1本鎖DNAウイルス
◎自らのゲノムを鋳型に2本鎖DNAを作り、複製する。
◆アデノ随伴ウイルス

2本鎖RNAウイルス
◎プラス鎖のRNAがmRNAとなりウイルス蛋白質を作る。自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼを用いて粒子内で複製を行う。
◆ロタウイルス

1本鎖RNAウイルス[プラス鎖]
◎ゲノム本体そのものがmRNAとして働き、ウイルス蛋白質を作り出す。細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製する。
◆コロナウイルス、エンテロウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス

1本鎖RNAウイルス[マイナス鎖]
◎まず本体であるゲノムRNAを鋳型にmRNAを作り、このmRNAからウイルス蛋白質を作る。多くの場合、細胞質で複製を行う。
◆麻疹ウイルス、センダイウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス

1本鎖RNAウイルス[逆転写]
◎本体であるプラス鎖RNAを逆転写し、2本鎖DNAを作り、宿主のゲノムに組み込まれる。ゲノムに組み込まれたDNAからmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生する。
◆ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)

2本鎖DNAウイルス[逆転写]
◎2本鎖DNAではあるが、いったんRNAを作り、そのRNAを逆転写することでDNAを作って自らを複製していく。
◆B型肝炎ウイルス

 近年、生物の起源(ウイルスは生物ではありませんが)はRNAだという考え方が主流となっていますので、RNAウイルスの方が先に登場したかもしれません。だからといってDNAウイルスの方がより進化した存在かというと、そうではないと思います。

 HIVのようなレトロウイルスは、自分自身のゲノムはRNAですが、逆転写酵素を持ち、これを使ってDNAを作ります。その結果、DNAは宿主のゲノムDNAの中に組み込まれ、安定した潜伏感染を形成します。ヘルペスウイルスやパピローマウイルスに代表される2本鎖DNAウイルスも宿主の核内に安定して慢性感染します。また、DNAウイルスの方がRNAウイルスよりも自らの遺伝情報をたくさん持ちやすい傾向にあります。RNAポリメラーゼはDNAポリメラーゼよりも校正能が低いことからRNAウイルスは変異しやすいとされますが、変異しにくいRNAウイルスも存在します。

 宿主とウイルスはともに進化してきたと考えられ、共生する宿主にウイルスが適応していった結果としてDNAかRNAか選択されてきたと考えられ、DNAかRNAかでどちらが優れているとか劣っているというわけではないと考えられます。

──ウイルスにはエンベロープを持つものと持たないものがあります。その違いは何でしょうか?

朝長 ウイルスは、ウイルスゲノムであるDNAあるいはRNAがカプシドという蛋白質の殻で覆われています。カプシドの形状は、らせん構造を取るものと正二十面体の構造を取るものに大別されます。このウイルスゲノムとカプシドの外側を覆うように存在するのがエンベロープです。ただし、ウイルスの中にはエンベロープを持たないものも存在します。エンベロープの有無は、ウイルスゲノムがDNAなのかRNAなのか、あるいは1本鎖、2本鎖なのかによって決まっているわけではありません。DNAウイルスでもエンベロープを持つものと持たないものがあるし、RNAウイルスでも同様です。エンベロープの有無に規則性は見いだせないのが現状です。

 エンベロープは脂質二重膜で、宿主の細胞膜を使って作られています。そのため、エンベロープにはウイルスゲノム由来の蛋白質(エンベロープ蛋白質)だけでなく、宿主細胞の細胞膜上に存在する受容体などの蛋白質も含まれています。エンベロープ蛋白質は宿主側の因子と結合するために使われるもので、HIVのエンベロープ蛋白質であるEnv蛋白質は免疫細胞表面にあるCD4と、新型コロナウイルスやSARSのエンベロープ蛋白質であるS蛋白質はACE2受容体と結合する作用があります。これらエンベロープ蛋白質は感染する細胞を決めるための蛋白質といえるでしょう。

 また、エンベロープにはエンベロープ蛋白質以外にもウイルス由来の蛋白質が存在することがあります。例えばインフルエンザウイルスではヘマグルチニン(HA)が知られています。これをフュージョン蛋白質と呼びますが、これはウイルスのエンベロープ蛋白質と宿主細胞の細胞膜が膜融合する際に機能します。エンベロープ蛋白質で感染する細胞の特異性を決めフュージョン蛋白質の助けを受けて膜融合し、細胞内へと侵入していきます。こうした蛋白質をウイルス粒子の表面にたくさん保有するにはエンベロープがある方が適しているのかもしれません。一方、エンベロープがないウイルスの場合、カプシドから蛋白質が突起のように出ていて、これが宿主細胞の細胞膜に存在する受容体などの蛋白質と結合し、エンドサイトーシスという細胞が細胞外の物質を取り込む作用を介して細胞内に侵入していくとされています。

 エンベロープは脂質二重膜によって構成されているため、石鹸などの消毒薬に弱く、エンベロープがないウイルスは石鹸などに強いとされています。エンテロウイルスやノロウイルス、ロタウイルスなど、消化液が存在する消化管で感染するウイルスにはエンベロープがなく、ウイルス蛋白質だけで構成されるカプシドだけで覆われています。エンベロープがないことは厳しい環境で感染性を維持するために大事な要素かもしれません。ただし、エンベロープの有無だけが厳しい環境に耐えるための手段ではないと思います。

──ウイルスには病原性を持つものがありますが、そもそもウイルスの毒性とはどんなものなのでしょうか。

朝長 ウイルスの毒性、つまり我々の体に及ぼす害の多くは、宿主の免疫応答だと言えるでしょう。つまり風邪で見られる感冒症状のように、炎症反応です。ウイルスそのもの、もしくはウイルスが感染した細胞を排除するために免疫系が働くため、発熱、鼻汁、咳などの症状が現れるわけです。

 中には宿主細胞の恒常性機構に異常を起こし、細胞死を引き起こしたり、細胞の癌化を引き起こすことで宿主に害を及ぼすものもありますが、多くの場合は宿主免疫が活性化して起こる免疫応答が人類にとっての害だと言えます。重篤な肺炎や神経障害を引き起こすウイルス感染症がありますが、これは宿主免疫が過剰に活性化してしまって、ウイルス感染細胞だけでなく、自らの臓器まで傷害してしまうからと考えられます。

 ただし我々人類が認知しているウイルスは、多くの場合、ヒトあるいは動物に感染して病原性を発揮するウイルスだけです。自然界にはもっとたくさんの、人類が知らないウイルスが存在すると考えられています。しかも我々が知っているウイルスは、宿主が違えば病原性がないものだってあります。SARSやMERSはコウモリやラクダに感染しているウイルスがヒトに感染して高い病原性を示したとされていますが、コウモリやラクダにとって脅威となるウイルスではないかもしれませんし、SARSやMERSのもともとの宿主(自然宿主という)は、元をたどれば別の生物だったかもしれません。そしてその自然宿主ではあまり増殖せず、おとなしく潜伏していたのかもしれません。

 地球上の生物の生活環境は昔と今ではずいぶん違うでしょうし、ヒトで言うならば、今のように密集して生活していたり、飛行機を使ってしか移動できないような距離を行き来していたわけではありません。気温などの自然環境も違うでしょう。今の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、今まで出会う機会がなかったウイルスと宿主(ヒト)が出会い、感染が成立し、社会状況を含めた環境が拡大を後押ししたのではないかと思います。

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連載の紹介

シリーズ◎新興感染症
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する話題を中心にお届けしています。

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