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寄稿◎新型コロナウイルス感染症・ナイジェリアの状況
ナイジェリアCDCが陣頭に立ち、封じ込め継続中

2020/03/28
堀越裕歩(WHO疫学コンサルタント)

ほりこし ゆうほ氏○WHOの感染症疫学の専門家。アフリカのナイジェリア勤務。ポリオウイルスなどのワクチンで予防できる疾患のサーベイランス、ワクチン接種の地方行政のサポートを行っている。2010年から2019年には、東京都立小児総合医療センター感染症科で勤務。同院で小児感染症の教育プログラムを立ち上げ、日本小児感染症学会の専門医制度の創設にも携わった。

 ナイジェリアは「アフリカの巨人」と呼ばれる大国だ。面積は92万3773平方キロメートルで、日本の約2.5倍。人口は1億9587万人(2018年)に達し、アフリカ最大。世界でも第7位に位置する。半面、感染症の問題を多く抱え、マラリア、HIV、結核、麻疹、ポリオウイルス、ラッサ熱、黄熱病、住血吸虫…と、挙げ始めたらきりがない。

 そうした状況を改善するため、ナイジェリア政府は2011年、保健省の疫学部門、新型インフルエンザ対策プロジェクト、微生物検査部門、実地疫学や検査部門トレーニングプログラムを統合して再編成。2018年11月には法律に基づき、ナイジェリア疾病対策センター(Nigeria Centre for Disease Control;NCDC)を設立した。

 NCDCの使命は、予防対策、疾病サーベイランス、疾病対応をワンヘルス・アプローチで実行し、ナイジェリア人の健康を守ることである。これらのミッションは熟練の専門家がエビデンスに基づいて行い、200人を超える職員が、公衆衛生による感染症の予防と対策、アウトブレイク時の緊急対応、感染症検査、人材育成などを担っている。地方にも人材を派遣して、国全体の感染症対策を進めている。

 そのナイジェリアにおいて、新型コロナウイルス(COVID-19)感染の1例目はイタリアからの渡航者だった(2月28日保健省発表)。NCDCは、ウイルスの検査・診断、隔離、接触者の調査を速やかに行い、その初動は見事なものだった。

 ナイジェリアは、行政、ロジスティックス、基礎的な社会インフラに多くの問題を抱えている。発電量は需要の半分程度で、毎日どこかで停電しているので、医療機関に自家発電機は欠かせない。そもそも電線が引かれておらず、電気のない病院は珍しくなく、多くの地域で高度医療を行う体制や資源がない。アクセスが悪くて医療機関にたどり着けない住民も多数存在する。そうした状況でも、先進国が大騒ぎしているCOVID-19への初動が見事だったのは、NCDC設立によって平時からアウトブレイクへの準備ができていたからである。

 2月29日には、中国、韓国、日本、イタリア、イランからの渡航者は、症状がなくても2週間の自宅待機とすることを決定。3月20日時点では14カ国まで拡大している。このような決定の通知を一元的に行うのもNCDCだ。ナイジェリアではこうした発表を大統領など政府が行うと、与党や政権を支持しない人の反感を買って、実行が難しくなることがしばしばある。NCDCが発表することには、政治色を薄めることができて施策の実効性を高められるというメリットがある(もちろん、政治判断が絡むことはあるだろうが)。責任の所在もNCDCであり、分かりやすい。

 3月25日時点の感染者数は51人。第1例発生後の対応の評価はまだ何とも言えないが、引き続き、NCDCが陣頭指揮を取っている。

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