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トレンド◎生活不安におびえるがん患者に役立つお金の情報
医療者などが集まりがん治療に関わる制度の情報を提供

2020/08/26
小崎丈太郎=生命科学・医療記者

 がんは生命や健康を脅かす病であると同時に金銭事情や仕事を含めた生活全般をも脅かす病である。こうした医療以外の様々な悩みを抱える患者のために活動する医療者や社会保険労務士などが設立したのがNPO法人「がんと暮らしを考える会」。同会の活動の概要と、がん患者が抱える生活不安について聞いた。


がんと暮らしを考える会の理事長を務める賢見卓也氏は在宅緩和ケアの訪問看護ステーションに勤務する看護師

 医療従事者、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(FP)によりNPO法人「がんと暮らしを考える会」が発足したのは2011年。立ち上げの際に中心的な役割を担った理事長の賢見卓也氏は在宅緩和ケアの訪問看護ステーションに勤務する看護師だ。「患者さんと接する中でがんを患って経済的な不安をかかえているものの、使える公的な制度やがん保険、生命保険などをうまく使っていないケースが多かった。そのために多職種ががんにかかわるお金の事情を勉強する場が必要だと考えた」と賢見氏は語る。勉強会として活動を続けていたが、多くの患者さんに様々な情報発信することの必要性を感じ、2013年にNPO法人化した。

 対外的な活動は、病院に出向いて社会保険労務士とFPによる個別相談会の開催と、これらの相談会の内容を患者や家族が簡単に検索できるようにと立ち上げたWEBサービス「がん制度ドック」の運営だ。

 個別相談会は主としてがん専門病院を中心に開催しており、最近の開催事例では埼玉県立がんセンター、兵庫医大病院、国立国際医療センター、虎の門病院、都立駒込病院、都立墨東病院、さいたま赤十字病院、順天堂大学医学部附属浦安病院などで開催している。このほか東京都港区と共催で定期的に市民公開講座を開いて、がん患者の経済的な問題を中心に相談に乗っている。

 がん制度ドックは年齢やがんの部位、体調や加入している保険の種類を入力してくことで、患者が利用できる制度を調べられるシステムで、誰でも利用でき、年間6~7万件の閲覧がある。「このサイトは患者自身が、簡便に自分が利用できる制度を調べられる。医師は患者やその家族に院内のがん相談支援センターを紹介していると思うが、そのほかにこうしたサイトも使えることを紹介してほしい」と賢見氏は語る。なお、同会ではがん制度のドックの拡充を計画しており、その資金を捻出するため9月4日を期限にクラウドファンディングを実施している。

COVID-19がはがん患者の生活不安を助長

 一口にがん患者といっても、一人ひとりが置かれた状況は様々。定年で勤務先を離れ収入が減ったなかでがんと診断された患者、離婚してシングルマザーとなりながら育児と闘病を続ける患者、中小企業の経営者など置かれた状況によって抱える悩みは異なる。こうした事情が異なる患者一人ひとりにあったアドバイスとなる情報提供を行っている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が経済を冷え込ませた結果、雇用不安が広がっているが、そうした状況はがん患者も同じであり、ときに健常者よりも先鋭化した形で現れることになる。がんを理由に「解雇を告げられた」という相談が増えている。

 がんと診断されると、いろいろな物事を冷静に判断できなくなりがちだ。しかし、実はより多くの公的、私的な支援制度が準備されているが、それを知らずに途方に暮れている患者や家族が少なくない。がんと診断されてから利用できる制度というと医療に関連した公的な制度だけと考える人が多いが、民間の生命保険やがん保険、住宅ローンなども含まれる。こうした制度を知らないためにいたずらに苦労を重ねるケースも多い。

情報過多も問題、大事なのは自分に合った制度の抽出

 知識不足、情報不足の一方で、賢見氏は「情報過多による弊害」も指摘する。「本や患者向けWEBなどでは、治療に伴う体力低下では障害年金が利用できるとされている。しかし、現実には日常生活に支障をきたしていることを診断書でうまく記載されないため年金が受給できないケースもある。多くのメディアが障害年金を利用できると伝えているものの、申請手続きが困難であることが実は理解されていない」(賢見氏)

 確かに公的、私的な支援制度の種類は多い。しかし、患者や家族がそれらの中から自分の状況にあった支援を受けることは簡単ではない。「患者が置かれた状況に合った制度を利用するためには、制度を利用する順番の整理が大切。この制度を利用し終わったら、次の制度という具合だ。こうした制度の抽出をお手伝いしたい」と賢見氏は言う。

 治療費については高額療養費制度などが知られているが、その他の生活不安が大きくて治療に専念できないという患者も多い。医師が知らないところで患者は悩んでいる。医師やメディカルソーシャルワーカーだけでは対応できない事例を助けるために、我々を利用してほしいと賢見氏は語る。年間90万人の新規がん患者があることを考えれば、生活不安を抱える人もおおびただしい数になるはずだ。そのような患者を不安の中に置き去りにしないために、「がん制度ドックの利便性を向上させたい」と賢見氏は語っている。

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連載の紹介

シリーズ◎大腸癌を征圧せよ
早期に発見し、早期に治療すれば治癒するのが大腸癌。内視鏡検査・治療や外科手技の進歩によって5年生存率の改善が進むが、高齢化の進展、外科医不足、内視鏡検査への忌避感など、まだまだ課題も少なくない。大腸癌の征圧を目指した最新の取り組みを紹介する。

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