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緊急寄稿◎災害時の避難者への医療と気を付けるべきポイント
災害避難者はホテルへ収容を
地域防災計画や通知・法令に見る避難所設営のあり方

2020/07/09
森井大一(大阪大学感染制御学)

 2020年7月、九州地方をはじめとして各地が激しい豪雨に見舞われ、河川の氾濫や床上浸水などが発生しています。亡くなられた方とそのご親族の方々にお悔やみを申し上げます。激甚災害時もしくはその警報発令時に避難勧告が発せられますが、その避難所に関して大阪大学感染制御部の森井大一氏に緊急寄稿していただきました。


 今年(2020年)も豪雨災害が起こってしまった。百年に一度とか数十年に一度とか言われる大雨が、毎年降っている気がする。その度に、違和感を持ってみていた光景がある。学校の体育館や公民館の避難所だ。プライバシーもなにもあったものではない。感染症のリスクだって当然高くなる。日本環境感染学会が、こういった場面でも感染リスクを減らすための様々な工夫を提案しており、そのこと自体は有意義だ。しかし、その前に、なぜ体育館なのか。土砂が押し寄せてしばらく自宅に住めないような被災住民が当座の雨風をしのぐのは、ホテルのような宿泊施設であるべきではないだろうか。

 筆者は防災の専門家でもなければ災害医療の専門家でもない。10年以上前にDMATの資格を取ってはみたものの、救急医療の現場からもうずいぶん離れてしまっていた。ところが今回、偶然にも災害関連の法令を調べなければならない事情ができ、ちょうど災害対策基本法と災害救助法に目を通していたところに、熊本県及びそれに引き続く各地の水害のニュースに接した。そしてこれまでと変らず体育館に設けられた避難所の映像を目にした。今年は新型コロナウイルスの感染対策のために、「距離を取っています」「パーティションも置いています」「玄関には手指消毒のアルコールもあります」とテレビは伝えている。それも大事かもしれない。しかし、もっと大事なことがあると思う。

 先日、筆者の厚生労働省勤務時代の同僚でもある沖縄県立中部病院の髙山義浩先生とZoom(オンラインビデオ会議システム)でお話しさせていただく機会があった。高山先生も「ホテルか世帯毎のテントで収容すべき」と言っていたのを聞いてがぜん元気が出てきた。体育館に設置された避難所に対する筆者の既視感も違和感も、高山先生が共感するならそんなに間違ってはいないと思う。

 災害時の宿泊施設を避難のために提供することについては、目下の被災県である熊本県はこれまで障がい者や高齢者等に限ってホテル収容を想定した防災計画を定めていたようだ。被災住民全体をホテル収容することを想定した防災計画を整備しているところは筆者が調べた限り静岡県しかなかった(すべての都道府県の地域防災計画をつぶさに見たわけではないので他にもあるかもしれない)。

 そもそも東日本大震災直後の2011年3月24日に観光庁が発出した通知において、被災県外に避難所を設置する際にホテルなどの宿泊施設を活用することが促されてはいたし、実際に活用もされていた

 ただ、このような経験はその後の防災計画に必ずしも引き継がれていない。

 しかしここにきて、民間の宿泊施設を避難所として想定するところが出てきた。報道によると、東京都が都内の宿泊業者の団体と災害時の避難所確保の関する協定を締結したし、長野県も大規模災害発生に備えて県内市町村に対して、ホテルや旅館を住民の避難所として積極的に活用すべく検討を求めたと4月の段階で報じられている。これに相呼応して観光庁も緊急事態宣言只中の4月28日に、災害時の避難先としてホテルや旅館を活用するべく具体的に準備するよう求める通知を発出していた。

 このような動きが出てくるのは、もちろん新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響だろう。これまでと同じやり方で体育館に避難所を設置したのでは、COVID-19まん延の懸念がある。軽症者の新型コロナウイルス感染者は、既に都市部ではホテルに収容されており、その直近の経験がベースになって災害時の対応に関する検討が加速しているかもしれない。

 今回の豪雨災害によって避難を余儀なくされる人の数は100万人を超えると報道されており、これだけの人を被災地やその近隣地域の体育館や公民館に閉じ込めるようなことは、今やあり得ない。県内のみならず県外の宿泊施設も総動員して被災住民の受け入れをすべきだ。

 べき論としては、以上のとおりだ。ただし、考慮すべき課題がないわけではない。最も本質的な課題は、このような避難者の宿泊施設を災害時にいかに安定的に確保するかだ。これを言い換えると、都道府県の地域防災計画にどうやってこのホテル収容を盛り込むかということになる。今は新型コロナウイルスの流行があるから宿泊施設にも空室があるだけで、客足が戻れば話は別、と考えるのが普通だろう。本業で忙しい時に、ホテルや旅館が世のため人のためとはいえ、被災住民を率先して受け入れるのは難しいのではないか。行政の立場に立てば、そのような受け入れ体制の不安定性を抱えたままで、これを防災計画に組み込むことはできないということになろう。

 どうにかこの受け入れ体制の不安定性を克服することはできないだろうか。そこで災害救助法を紐解いてみると、その第9条に都道府県知事等の収容等として以下のような条文がある。

災害救助法第九条 都道府県知事等は、救助を行うため、特に必要があると認めるとき、又は第十四条の規定に基づく内閣総理大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、病院、診療所、旅館その他政令で定める施設を管理し、土地、家屋若しくは物資を使用し、物資の生産等を業とする者に対して、その取り扱う物資の保管を命じ、又は物資を収用することができる

(下線は筆者による)

 つまり、災害における「救助を行うため」であれば、宿泊施設を行政が使ってもいいのである。そこで今度は、救助とは具体的に何を指すのかを見るために、同法の第4条を見てみる。

第四条 救助の種類は、次のとおりとする。
一 避難所及び応急仮設住宅の供与
二 炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給
三 被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与
四 医療及び助産
五 被災者の救出
六 被災した住宅の応急修理
七 生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与
八 学用品の給与
九 埋葬

(下線は筆者による)

 つまり、避難所を設置することも救助なのである。同趣旨の条文は災害対策基本法第71条にもあり、都道府県地位の権限で、民間の宿泊施設を避難所として活用することは法律にも予定されているのだ。

 これらの条文は、新型インフルエンザ特措法の際にも問題になった「財産権や経済活動の自由」という私権制限に他ならない。なので、なるべくなら強制的な形でごり押しするのではなく、協定を結ぶなどして穏当に進めるのがまずは目指すべき形だ。ただ、憲法29条第3項で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」とされている以上、最終的に行政(都道府県)は、災害時の避難所として宿泊施設を強制的にでも活用することができることは明らかである。

 法律と憲法が予定した避難所のあり方は未だほとんどの地域で具体的な防災計画にまで落とし込めていない。そのためには、何よりも住民自身による熟議が必要だ。まずは、全ての国民が、いつ自分が被災するかも分からないと考えなければならない。甘んじて体育館に避難するのがいいか、ホテルに収容されるのがいいか、そこに係るコストも踏まえた上でじっくりと議論し、熟議の上で我が町の防災計画を形作っていくことが重要だろう。

 これまでテレビや新聞で幾度と目にしてきた災害時の避難所について、漠然とした既視感と違和感のレベルでとどまっていた我が身を恥じる。と同時に、我が事として関心を持たなければ、いつか自分が不本意に体育館に押し込められる立場になるやもしれない。

 そう思っていたところ、7月6日、国から新しい通知「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第2版)について」が発出された。このQ&Aを見てみると、ホテル・旅館での被災住民の受け入れについては、高齢者や障がい者等を優先するとしつつ、「避難が長期にわたると見込まれる場合には、健康な人等を含め、できるだけ早期に、ホテル、旅館、研修所、その他の宿泊施設等に移送することが望ましい」とした。

 災害の多い国、日本の避難所風景が劇的に変わることを期待したい。

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