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〔08 Autumn〕 提供:大鵬薬品工業株式会社
日本乳癌学会学術総会会長座談会
今日の乳がん治療の課題と展望─第16回日本乳癌学会学術総会への期待

2008/09/16
日経メディカルCancer Review

第16 回日本乳癌学会
学術総会会長
稲治英生先生
大阪府立病院機構
大阪府立成人病センター
乳腺・内分泌外科主任部長

日本発のエビデンスSELECT BC 試験に期待

園尾 術前の化学療法にも進展が見られます。最近では多くの専門施設で行われており、50~60%といわれる通常の乳房温存率が、70~90%に向上するという報告があります。また、20〜30%の症例はがん細胞が完全に消失し、そのような症例は予後が良好であると言われています。稲治先生は術前化学療法をどのようにお考えですか。稲治 乳房温存率の向上は、術前化学療法の最も大きなメリットではないかと私も思います。私たちの施設では、腫瘍径が3 ㎝以上で温存を希望される患者さんを対象に術前化学療法を行ってきました。しかし、down stageが得られたからといって無闇に乳房温存術を行うと乳房内再発の危険性も高くなるので、化学療法後の画像診断で適応例を厳選する必要があります。

池田 私は術後に抗がん剤の適応になることが術前からわかっていれば、術前化学療法が適応と考えます。つまり、乳房温存手術を増やすことが主目的ではありますが、感受性を確認することもかなり意識しています。

園尾 再発乳がんに対する化学療法の最新のアルゴリズムはどのようになっていますか。

池田 従来は、ホルモン療法から化学療法のポジショニングはかなり明確に決まっていました。しかし、選択薬にトラスツズマブが加わった最近では、抗がん剤への移行の際にトラスツズマブの感受性を調べ、陽性であれば抗がん剤にトラスツズマブを併用するという考え方に変わってきました。また、再発後の化学療法は継続治療でも併用治療でも全生存期間は同等との報告があったため、単剤を順番に使うのが一般的でした。しかし最近は、コンビネーションによって全生存期間が延びるようなデータもUS Oncologyなどから発表されるようになり、最初から併用治療を選択すべきか、従来通りの継続治療で良いのか、非常に流動的な状況になっています。
 
またトラスツズマブとのコンビネーションについても、今年のASCOで発表されたデータで、全生存期間では差がなかったものの、無増悪生存期間では最初から併用治療で開始した群が有意に高い効果を示していました。ですから、トラスツズマブに感受性があれば他の抗がん剤との併用治療を選択し、PDになれば抗がん剤を変更するという考え方で良いのではないかと思います。

稲冶 わが国でもトラスツズマブとドセタキセルの同時投与と継続投与の比較試験が進行中であり、その成果が待たれます。進行再発乳がんに対する治療戦略としてのHortobagyiのアルゴリズムも、10 年経った今は再考が必要なのかもしれません。

園尾転移・再発乳がんに対するタキサン系薬剤とTS-1のランダム比較試験であるSELECT BC 試験にも触れておきたいと思います。わが国で開始されたこの比較試験の意義をどのようにお考えですか。

池田 1つには、わが国独自の経口抗がん剤のエビデンスを、日本から発信するという意義があります。そして、副作用を考慮せずに最初から奏効率の高い薬剤で一気に叩くという戦略が本当に適切なのか、あるいは経口抗がん剤を1次治療に用いて、そこからタキサン系薬剤などに移行していくという戦略がどの程度有効なのかという問いに、1つの方向性が示されると思います。このような試験で、TS-1の非劣性が証明されれば、再発例でも副作用を嫌って、経口で治療したいという人が当然出てくると思います。

稲治日本発のエビデンスですから、ぜひとも成功させたい試験です。

園尾本日のお話で、乳がん領域の治療が標準化から個別化へ向かっていることが確認できたと思います。その一方で、「がん対策基本法」の有効な運用による乳がん検診の拡大とがん医療の均てん化の推進が、今後の大きな課題であると思います。また、乳がんの化学療法については、術前と術後を問わず、経口の新薬の普及により治療のアルゴリズムそのものも再考すべき時が来ているとの示唆が得られました。全体を通して、乳がん医療の着実な進展が強く感じられましたが、最後に乳がんの治療では早期発見がより重要であることを改めて強調させていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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