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特集 [08 Summer]
学会リポート2・第6回日本臨床腫瘍学会学術集会より

2008/06/19
日経メディカルCancer Review

教育セッション・最新のサイコオンコロジー:がん患者はなぜ死を望むのか?
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学 明智 龍男氏
「死にたい」は「生きたい」の逆説的表現 個々のニードに合わせた適切な心理ケアを

 
がん診療の現場では、患者が「早く死にたい」「安楽死させてほしい」などと話すことは少なくない。実際、まれではあるが、自殺する患者もいる。
 
教育セッションでは、名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学の明智龍男氏が、がん患者の自殺にどのような要因が絡んでいるのか、死にたいと話す患者に対し、医療スタッフがどのように接していけばよいのかについて、サイコオンコロジーの立場から講演した。

 明智氏はまず、わが国の自殺の現状を説明した。わが国では、1998 年以降、自殺者が3万人を超える状況が続き、これは交通事故死の5倍以上である。性別では男性が、年齢別では50歳代(23%)、60 歳以上(35%)と中高年が過半数を占める。自殺者の80 ~90%が精神医学的問題を抱え、中でもうつ病とアルコール依存症が重要な危険因子となっている。

しかし、「自殺者には“死にたい”との思いがある一方で、“助けてほしい”という相反する気持ちが共存している」と明智氏は心理学的特徴を指摘した。

 次に、がん患者の自殺に関する疫学的検討についての解説があった。がん患者の自殺率は、欧米の研究やわが国の研究から、概ね0.2%であり、これは一般人口の自殺率に比べて1.5~3 倍と有意に高いことが明らかになっている。また、米国、フィンランド、スイス、スウェーデン、デンマークの研究から、男性が女性より6.2 倍多
いこと、診断時に既に進行がんである場合、そして診断後数カ月以内の時期に自殺が多いことが明らかになって
いる。

さらに、自殺したがん患者について、“心理学的剖検”という独特の手法で分析したフィンランドの研究から、うつ状態が最大の要因になっていることも分かった。これらから明智氏は「自殺予防の観点からは、進行がん告知後の心理的援助が必要だ」と指摘した。

 続いて、がん患者の「希死念慮」(死にたいと思う気持ち)の要因とその対応について、明智氏が国立がんセンター中央病院で行った調査や欧米の研究の結果が示された。それによると、進行がんや終末期がんの患者では、10 ~20%が希死念慮や安楽死を望んでいた(図)。これらの背景には、痛みなどの身体的症状、うつ状態や絶望感などの精神的症状に加え、家族らへの依存の増大という実存的苦痛、社会的援助の少なさなど、様々な要因が複雑に絡んでいることが明らかになった。

 さらに、希死念慮が意味するものは、「生きたいことに対する逆説的表現」「死にゆく過程の辛さ」「今現在の耐え難い苦痛への援助の求め」「自己コントロールの主張」など多彩なものが潜んでいるとの研究結果もある。

 こうした希死念慮を抱くがん患者に対しては、「患者の言葉を避けることなく、話し合う姿勢を示すことが重
要であり、その際には患者がオープンに話せる状況を作り、『自殺は許されないことだ』といったこちらの価値
観を押し付けず、非審判的な態度でコミュニケーションすることが何より重要」と明智氏は強調した。

 そして、最後に明智氏は「個々の患者のニードに合わせて適切な緩和ケア、心のケアを提供できる医療チームを築き、率いていく能力が、腫瘍専門医には求められている」と締めくくった。

 分子標的治療薬の登場などがん治療は進歩を続けているが、多くの患者にとって、依然としてがんは致死的疾患である。この教育セッションは、薬物治療の効果や副作用の抑制などに関心が集まりがちながん診療の現状に対して、あくまで患者の人格の尊重が大切であるとの原点を再確認させる意義があったといえよう

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