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特集 [08 Summer]
学会リポート2・第6回日本臨床腫瘍学会学術集会より

2008/06/19
日経メディカルCancer Review

バイオマーカー研究~臨床応用への期待と現状

 日本臨床腫瘍学会と日本癌学会による合同シンポジウム1では、今日の新薬開発の鍵であり、両学会の接点ともいえるバイオマーカーについての研究がとり上げられた。国内におけるバイオマーカー開発がどこまで進展しているのか、日本癌学会からの推薦2演題を含む5つの研究報告がなされた。

① バイオマーカーを利用したがん分子標的治療薬の臨床研究

 名古屋市立大学大学院教授の上田龍三氏とともに座長を務めた近畿大学医学部ゲノム生物学教室教授の西尾和人氏は、自身もシンポジストとして口演し、がん分子標的治療薬を中心に、臨床研究におけるバイオマーカー探索の手法と意義について言及した。

 西尾氏は口演の冒頭で、正常な生物学的過程、発病の過程、さらには治療介入による薬理学的反応を反映する測定および評価可能な特性とバイオマーカーを定義し、その研究・解析の方法について俯瞰した。以下に、シンポジストから報告された具体的な手法と現時点において得られた成果を紹介する。

② 分子標的治療薬「ベバシズマブ」とバイオマーカー

 癌研究会有明病院化学療法科の松阪諭氏は、ベバシズマブの治療効果および予後を予測するバイオマーカーが未確立であるとし、その候補である末梢循環大腸がん細胞(CTC)、血管新生などに関与するとされる末梢循環血管内皮細胞(CEC)および末梢循環血管内皮前駆細胞(CEP)に着目、その可能性について報告した。なお、本検討の対象とされた症例における治療レジメンと症例数は、FOLFOX療法30例、FOLFOX+ベバシズマブ併用療法21例、FOLFOX施行後にFOLFIRI療法を行った13例となっている。

 まず、CTC数と大腸がん化学療法における最良治療効果の関係をみると、PRおよびSD症例では治療2コース目開始前のCTC数が2以下になっていた。同様に、PFSとOSとの関係について治療開始後8~12週時点のCTC数3をcut offとしてみた。その結果、CTC数3未満群のPFSは208日で、CTC3以上群の106日に対し有意に良好な値を示していた(p=0.004845)。

 CECについては、FOLFOX療法単独とこれに同剤を併用する群との比較において、その関与は認められなかった。一方、CEPについては、PRおよびSD症例で有意な減少を認めたのに対し、PD症例では減少がなかった。
 以上の結果を踏まえて松阪氏は、CTCは大腸がん化学療法の治療効果および予後予測バイオマーカーとして、CEPはベバシズマブの治療効果予測バイオマーカーとして有用と考えられると結論づけた。

③ 塩酸イリノテカン代謝酵素の遺伝子多型解析

 埼玉医科大学国際医療センターの長島文夫氏は、進行再発大腸がんに対するFOLFPORI療法における好中球減少の発現に関連するとされるグルクロン酸抱合酵素(UGT1A1)の遺伝子多型について、その解析結果を報告した。

 UGT1A1は、塩酸イリノテカンの活性代謝産物であるSN-38を解毒的に代謝する酵素である。変異型であるUGT1A1*28アレルは、日本人の約15%に存在するとされ、アジア人のみに認められるUGT1A1*6アレルと同様、同酵素の活性低下を招くとされる。したがって、転移再発大腸がんに対するFOLFIRI療法の第II相試験ではUGT1A1*28アレルを持たない症例のみを対象とし、塩酸イリノテカンの用量は第I相試験において設定された推奨用量である180mg/m2を投与している。同試験の成績は、対象の25例中、評価可能であった22例における奏効割合は27%(6/22)であり、grade 3以上の血液毒性は12例、grade 3以上の非血液毒性は5例に認められた。最終投与まで減量なく行えた症例は25例中10例であった。

 UGT1A1*28アレルについては、薬物遺伝学的検討からこの遺伝子多型を有する症例に、塩酸イリノテカン150mg/m2を投与し検討している。その結果、同症例では血漿中のSN-38の代謝が進まず、重篤な好中球減少を発現することが確認されたが、100mg/m2への減量により毒性は低下した。

 長島氏はこれらの結果から、FOLFIRI療法における塩酸イリノテカンの用量は、UGT1A1*28アレルを持たない日本人が対象の場合は180mg/m2が可能と考えられるとし、UGT1A1の遺伝子多型を考慮しない塩酸イリノテカンの用量設定試験ではDLT(用量制限毒性)出現の可能性が高まり、同剤の過小評価を招く危険性があることを指摘した。

④がんにおけるイメージングマーカー

 癌研癌研究所生化学部の今村健志氏が、発光および蛍光イメージングを用いた研究の現況を報告した。
 発光イメージングはがん細胞にウイルスベクターを用いて発光遺伝子を導入し、in vivoにおけるがん細胞の動向を観察するというものである。この方法により、動物実験ではがん細胞の転移を同一個体において経時的に観察できる。ヒト乳がん細胞株を用いた実験では、移植後全身を循環していたがん細胞が3週間後には骨に集積する様子が発光シグナルにより捉えられ、乳がんにおいて骨転移が高頻度に起こる状況の確認が可能であった。

 この系にTGF-β(トランスフォーミング成長因子β)に反応して発光する細胞を導入すると、骨転移の過程でTGF-βが重要な役割を果たすことが可視的に確認できる。

 一方、蛍光イメージングには発光イメージングと同様、細胞を標識する機能とともに、プローブを使いがんにおける血管新生をイメージングすることが可能という。がん細胞、血管を異なる色で標識することが可能で、この実験系によりベバシズマブの有する血管新生阻害作用が可視化される。また、蛍光体同士が接近する際に生じる消光作用を利用し、酵素活性の測定にも応用可能という。さらに、細胞周期をイメージングすることでがん細胞の治療反応性を捉えることもできるなど、臨床応用への道のりはいまだ距離があるものの、非侵襲および低侵襲なバイオマーカーとしての期待が大きいと考えられた。

⑤ アスベスト・中皮腫のバイオマーカー

 順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授の樋野興夫志は、今日、社会問題化しているアスベスト吸引による中皮腫におけるバイオマーカーの研究の経緯と臨床応用の現状について報告した。

 樋野氏は、アスベストによる中皮腫のバイオマーカーとして発見した遺伝子Expressed inRenal Carcinoma (ERC)は、ラットにおける遺伝性腎がんの研究に端を発したとその経緯を説明した。ERCは、遺伝性ラット腎がんの発がんおよび進行過程で高発現する遺伝子である。

 その遺伝子産物は発がん過程で血中に分泌されることから、遺伝性ラット腎がんの診断に利用が可能であった。その後、ERC遺伝子はヒトの胸膜や腹膜中皮にも存在することが分かり、ヒト悪性中皮腫における腫瘍マーカーになり得ると考え、これを測定するためのassay系の確立を目指した。開発したELISA系キットを用いて測定したところ、中皮腫と診断された患者血清においてERC濃度が上昇しており、中皮腫の外科的切除後に低下することが確認された。なお、今日、ERCはヒトMethothelin/MPFのラットホモローグであることが判明している。

 中皮腫は、現在、CTスキャンあるいは組織生検による診断が行われているが、その時点では多くの症例が進行しており、より早期に診断する必要がある。樋野氏は、ERCは病型により感度が異なるものの、1次スクリーニングとしては有用であるとし、現在、順天堂大学アスベスト中皮腫外来においてERC高値例を捉えて2次スクリーニ
ングのCTスキャンを実施中であり、通常のX線では描出不可能な小プラークの発見に寄与しているとした。

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