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特集 [08 Summer]
学会リポート2・第6回日本臨床腫瘍学会学術集会より

2008/06/19
日経メディカルCancer Review

3月20日から2日間にわたって福岡国際会議場で開催された第6回日本臨床腫瘍学会学術集会では分子標的治療薬の有害事象をテーマにした報告が数多くあった。多くは制御可能な事例ではあったが、従来の抗がん剤に比べ、循環器や呼吸器など広範な臓器に出現するケースがあるなど注意が必要であるとの指摘が続いた。これは、安全にできるかぎり長期間使うことが患者の生存期間の改善に最も重要であるというコンセンサスの裏返しでもある。分子標的治療薬の話題のほか同学術集会のトピックスを紹介する。


治療法の検証
 
分子標的治療薬抜きにして多くのがんの化学療法は成立しなくなりつつある。これまで、満足がいく化学療法の手段がなかった分野に分子標的治療薬が登場し、治療風景が一変するケースも増えている。ソラフェニブ(商品名:「ネクサバール」)、スニチニブ(同:「スーテント」)が登場し、進行再発腎細胞がんでは生存期間の改善効果が期待されている。年内に登場が予想される新薬も殆どが分子標的治療薬だ。これまでにない有用なツールが手に入ることは間違いない。

しかし、一方でがん細胞内のシグナル伝達を阻害するという新しい方法論で開発されたこれらの薬剤の潜在能力を十分活用していくためには、臨床現場でも、今までの薬剤にはない注意を払っていく必要があると多くの専門家は指摘する。
 
「従来の抗がん剤は骨髄抑制や下痢、脱毛など、有害事象は予想できるものが多かった。しかし、分子標的治療薬の有害事象は予測できないものがあることを想定して使っていく必要がある。そのためには、医師だけではなく薬剤師や看護師を含め、医療チーム全体でどのような有害事象が出現する可能性があるのかを、予め共通知識としておくことが必要であるし、予期しなかった有害事象が現れたら、チーム内で即座に情報共有できる体制を作っておくことが大切」と国立がんセンター東病院副院長の西條長宏氏は語る。「そういう体制ができないうちは、分子標的治療薬は使わないほうがいいでしょう」。
 
実際に分子標的治療薬はわが国にどのように導入されているのだろうか。これまでの海外での使用報告に重点をおいた啓発的な発表に代わって、実際に使用した上での発表が相次いだ点が今年の日本臨床腫瘍学会学術集会の特徴といえそうだ。分子標的治療薬、さらに注目の新薬の使用経験を紹介する。

①ベバシズマブ   
PFSが顕著な延長、治療終了後の消化管穿孔に要注意

 

進行・再発結腸・直腸がんを対象に国内11施設が参加したベバシズマブ(商品名「アバスチン」:BV)+FOLFOX4(5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン)療法の安全性試験の結果が報告された。これは、2005年7月に厚生労働省の未承認使用薬問題検討会議の要請によって実施行されたもので、「Bevacizumab安全性確認試験共同研究グループ」を代表して東北大学病院腫瘍内科講師の加藤俊介氏(写真)が発表した。
 
加藤氏は、「BV+FOLFOX4療法は日本人に対しても欧米で確認されたのと同様、有用な治療法であることを確認できた」と述べるとともに、「既存の抗がん剤とは異なる有害事象が出ることを考慮して院内のスタッフ間で情報を共有するとともに、PFS(無増悪生存期間)の延長とともに、FOLFOX4を構成するオキサリプラチンの神経毒
が出現する可能性は高くなるので、注意していく必要がある」と語った。

 解析の対象となったのは①初回治療例:化学療法による治療を受けていない患者でBV5mg/kg/2wk 投与されている患者群38人②2次治療以降例:IFL(イリノテカン+5-FU)やFOLFIRI(5-FU+LV+イリノテカン)などオキサリプラチンを除く化学療法を受けたけことがある2次治療患者でBV10mg/kg/2wkを受けた患者群26人の合計64人。
 

奏効率は初回治療例では79.4%、2次治療以降例では47.8%(表1)。PFSは、初回治療例で13.6カ月(414日、95%信頼区間:252-458日)、2次治療以降例では9.7カ月(294日、95%信頼区間:216-日)だった。2次治療以降例のPFSが初回治療例のそれを下まわった理由について加藤氏は、「2次治療以降例の観察期間中にベバシズマブが正式承認されたために、観察期間は初回治療例よりも短くなっている。加えて、一度化学療法による治療を受けて、無効化した患者が含まれていることが原因と考えられる」と語っている。
 
主要評価項目となった安全性については、BVに特徴的なgrade3以上の有害事象のうち、高血圧が2次治療以降例で23.1%と高い割合で認められたが、治療薬で制御可能のレベルで中止が必要であるレベルではなかった(表2)。消化管穿孔がBV投与期間中で1例、投与終了後に2例、動脈・静脈血栓症が投与終了後に各1例認められた。
 
「症例数は少ない」と加藤氏は前置きをした上で、「欧米の例と逸脱した有害事象の発現は認められず、日本人においても有用な治療薬であるということができる」と語った。抹消神経障害やアレルギーなどFOLFOX4療法にきわめて重要な有害事象がBVとの併用によって、有害事象の頻度が上昇するという変化も見られなかった。

「しかし、PFSの延長により結果的に治療期間が長くなる。このため、オキサリプラチンの蓄積毒が出やすくなるために、オキサリプラチン特有の有害事象が現れたら、オキサリプラチンを休薬するなどの対策をとる必要がある」と語った。
 
BVは市販後調査が実施されており、安全性の重要評価項目として、消化管穿孔、腫瘍関連出血、動静脈血栓、高血圧、たんぱく尿、心筋障害、infusion reaction、創傷治癒遅延、後白質脳障害などが挙がっている。
 

加藤氏は「これから新しくBVを使用する場合、従来の抗がん剤に比べ多彩な有害事象が現れることを考慮して使ってほしい。特に血栓症の既往がある患者では血栓症が出現しやすい。またNSAIDsなど潰瘍を生じやすい薬を服用していた患者では腸穿孔を起こしやすいなどの報告があるので注意すべき」と指摘している。

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