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化学療法アップデート [08 Summer]
前立腺がん増え続ける患者と“PSA難民”にどう対処するか

2008/06/19
日経メディカル開発

ドセタキセルによる抗がん化学療法
 
転移前立腺がんにおいて、内分泌療法を行うとPSA値は一時的に低下し、また骨疼痛などの症状も軽快するが、いずれPSA値は上昇し始める。この病態を内分泌不応がん、あるいは再燃がんと呼んでいる。現在一般的なのはステロイド療法であるが、最近細胞分裂における微小管阻害作用を持つドセタキセルが内分泌不応がんに有効であることがわかり、適応拡大が期待されている。

ドセタキセルは、やはり抗がん剤であるエストラサイトとの併用、あるいは単独療法で生存率を延長することが明らかになっている。主な副作用には骨髄抑制、末梢神経障害などあるが、高齢者にも比較的安全に投与できる。また内分泌不応がんのみならず局所進行がんにおいても局所療法を組み合わせる臨床試験が欧米で行われており、その結果が期待されている。


PSA高値、がん未発見の患者への介入
 
PSA検診を行っても、そのCut off値が明確でない問題点を指摘したが、実際の日常診療では、この曖昧さが大きな問題となっている。一次検診で、可能性のある被験者を精検して、がんが発見されなければ、被験者はがんに罹患していないと結論できる。

しかし、前立腺がんの場合は、PSA値のcut off値が明確ではないために、「がんは出ませんでしたね。じゃあ、よかったですね。さようなら」と言えないのである。「まあ、来年診てみましょう」とか、「半年後、検査しま
しょう」とか、永遠に来院を勧めることになる。

 そうこうしているうちに5年後にがんが見つかる。「ようやく見つかった」のではなく、「ようやくがんが出てきた」ということであり、そうした方々を筆者は“PSA難民”と命名している。恐らくこういう“患者”は日本で約100万人に上るのではないかと推察している。

帝京大学で今、年間300~400人生検をして、がんが見出されるのは100人、見出されないのは200人というのが現状だ。発見までに5年間を要すると考えると延べ1,000人という数になる。重複している人を除いた700人ぐらい
の患者さんがPSA難民ということになるだろう。
 
生検をして、がんは見つからないが、「今後ともPSA値を見ていきましょう」といわれると、患者は不安が高まり、ストレスの原因にもなる。PSA値は、身体に慢性的な炎症を抱えていると上昇することが明らかになっている。ということは、PSA値が高いこと自体が、現在仮にがんではなくても、将来がんを誘発する母地を体内に抱えていることを示唆している。そうしたPSA難民にどのような医学的な介入が可能であろうか。筆者は食生活やサプリメントによる“介入”の可能性を検討している。


抗酸化成分や運動への注目
 
前立腺がんを予防する食事として、大豆イソフラボンを含む味噌、抗酸化成分を含むトマトがある。それからウコンとか緑茶も有効とされる。ワインやブドウの表皮に存在するポリフェノールの一種、レスベラトロールなど酸化ストレスを緩和する食材の研究が進んでおり、こうした成果をPSA難民の日常生活に取り入れ、真性の前立腺がんへの移行を減らすことができないかを検討している。


 筆者らが注目したのは、イソフラボンとクルクミン(ウコンの成分)。従来から前立腺がんの進行を抑えるとか、前立腺がんの増殖を抑えるということが大分知られており、炎症を抑える作用があるということが明らかになっている。

帝京大学病院に来院して前立生検でがんが発見されなかったPSA難民89人(50~80歳)を対象に、サプリメント、イソフラボンとクルクミンを成分としたサプリメント(試作品)と、プラシーボとを用い
た二重盲検査研究を実施した。

その結果、PSA値が低値(10ng/ml未満)では、サプリメント群でもプラセボ群でも、PSA値降下幅に大きな差
がなかった。しかし、PSA値高値群(10ng/ml以上)では、サプリメントで有意にPSA値が低下した(図6)。つまり、イソフラボン+クルクミンのサプリメントはPSA値が10ng/ml以上の患者で有意にPSA値を低下させたことになる。これは、サプリメント摂取がPSAに対して低下作用を示した世界で初めての例である。
 
国内では筆者以外でも、PSA値高値で前立腺がんが発見されていない患者に漢方薬を投与して前立腺がんの発症リスクを減らす試みを続けているグループもある。こうしたPSA難民のPSA値を低下させ、潜在的な前立腺がんの進展を抑えることができるようになると期待している。

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日経メディカル Cancer Review

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