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化学療法アップデート [08 Summer]
前立腺がん増え続ける患者と“PSA難民”にどう対処するか

2008/06/19
日経メディカル開発

早期には局所療法、進行するとホルモン療法

 治療法として、手術療法、放射線療法、ホルモン療法に加え、近く抗がん剤を使った化学療法が承認されるといわれている。治療法を決めるための要素は1)進展度、2)分化度、3)患者の年齢、4)合併症の有無、5)インフォームドコンセントの有無、などであろう。前立腺がんは限局がん→局所浸潤がん→転移がんと進展する。限局がんでは殆ど根治可能である。転移がんは治癒が期待できず、局所浸潤がんはその中間である。局所療法としては手術療法、放射線療法、これは前立腺に対する治療である。全身療法としては、薬剤治療、内分泌療法という男性ホルモンを抑える治療、あるいは抗がん剤の治療、それから無治療経過観察ということもある。
 
前立腺がんはPSAが登場し、早期にがんが見つかるようになった結果、早期がんの発見で治療成績が改善した。とはいっても、どのような前立腺がんでも同じように加療すればいいかというとそうではない。常に過剰診療ではないかどうかを意識する必要がある。
 
1つの基準として、筆者は、“良いがん”と“悪いがん”と大別している。もともとの臓器に似ているものを高分化がんというが、これは基本的に良いがんであって、これは前立腺がんにかかわらず、胃がんであろうが、大腸がんであろうが、膀胱がんであろうが、全てそうである。そのようながんは、自分の母体の臓器を離れて血液の中で生きていけない。言い換えると、転移しにくいということになる。
 
悪いがんの場合は、がんの体積が大きい、あるいは転移する可能性が高いがんということができる。転移が起こると、当然QOLも悪化し、死亡する。ある程度の不自由さがあっても徹底的にがんを駆除する治療が必要になるがんである。
 
局所治療としては、手術治療と放射線治療がある。最近、HIFU(高密度超音波式焦点治療)という超音波治療も行われている。全身治療は、内分泌治療と抗がん剤治療ということになる。
 
治療の選択基準としては、やはりがんの悪性度、良いがんか悪いがんかをきちんと見きわめる。それから転移をしているかどうかが問題になる。転移をしていれば、治癒する可能性は低下する。次に重視することは合併症の有無である。高齢化すればするほど合併症は増える傾向になる。加えて全身状態(Performance Status)も考慮する。
 
「良いがん」の治療法としては、治癒が期待できることから患者に負担が少ない治療法を考慮するべきである。患者が60歳以下で健康ならば、手術を行う。このとき臓器を温存する治療では再発の懸念があるので、全摘を実施する。60~70歳では手術に加えて、HIFU、放射線治療、内分泌療法のオプションがある。70歳を超える患者では治療法は60~70歳と変わらないが、余命を念頭において治療の選択を行う必要がある。
 
「悪いがん」治療の原則は、がんの駆除にある。前立腺内にとどまっている場合は、手術、放射線、内分泌療法を組み合わせるが、転移している場合には内分泌療法による全身治療を行う。内分泌療法の効果がなくなったがんでは化学療法を選ぶ。新しい免疫治療やワクチン治療、遺伝子治療もあるが、まだ研究段階であるので、今後の進展に期待したい。

内分泌療法:男性ホルモン遮断療法
 
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)によって増殖する性質を持っている。そこで男性ホルモンを遮断する治療が選択されることになる。例えば精巣を摘出するという治療法がある。それによってかなりがんの勢いが弱くなる、あるいは転移のがんで痛みがある患者でも、睾丸を取ってしまうと、うそのように痛みが減るということが1940年代には明らかになっていた。
 
現在では精巣摘出に加え、LH-RHアゴニスト単独療法とこれにアンチアンドロゲンを加えた治療法が一般的である。精巣摘出と内分泌療法の1stラインでの治療成績には差がない。視床下部から分泌されるLH-RHは下垂体を介して精巣から男性ホルモンの分泌を促すが、LH-RHアゴニストは下垂体LH-RH受容体のダウンレギュレーションを引き起こし、男性ホルモンの分泌を抑える。男性ホルモンを遮断することからいろいろな副作用が現れることになる。女性の更年期の症状と非常に似ているが、ほてりや発汗で、女性化乳房が出現する薬剤もある。
 
不思議なことに食欲が非常に亢進されて、体重がかなり増えてしまうということもある。気分の変化、イライラや不安が起きる。頻尿や貧血、高血圧、メタボリック症候群、肝機能異常、糖尿病になりやすいということなど、男性ホルモンを抑えてしまうと、いろんな生活習慣病がかなり出てくる。しかし、転移が見られる患者では、デメリットがあっても、現在のところ内分泌療法が最も有効な治療法である。症例を図4に示す。


骨転移が認められたらビスフォスフォネート
  
転移のあるがんの治療目標は生存期間の延長にある。同時に諸症状を管理して、QOLを損なわないようにすることにも注意を払う必要がある。特に前立腺がんが転移しやすい臓器に骨がある。骨転移への対応が前立腺がん治療では非常に重要になっている。
 
前立腺がんの転移の大体65~75%は骨転移である。骨転移に伴う症状として、病的な骨折、脊髄の圧迫による麻痺、骨痛がある。骨転移が認められてから9年を経過した患者の50%に骨折が認められたとする報告もある。
 
骨転移を促す要因として、非常に重要なのが男性ホルモンの遮断によって進展する骨粗鬆症である。前立腺がんの治療ではこうしたやっかいな悪循環が問題になる。こうした骨粗鬆症には骨吸収阻害作用を持つゾレドロン酸(「ゾメタ」)やインカドロン酸(「ビスフォナール」)などのビスフォスフォネートを使用する。図5は転移
巣を対象に米国で行った大規模無作為化割付試験の結果である。ゾレドロン酸が骨関連事象を有意に減らすことが明らかになった。
 
骨転移が認められた場合では、ゾレドロン酸などビスフォスフォネートはできる限り早期から使用することが望ましいとされている。
 
また抗男性ホルモン療法を行うことが転倒を増やすことも明らかになってきた。椅子から立ち上がる、目をつぶって立つ、こうしたバランス感覚には男性ホルモンの量と関わりがある。男性ホルモンが少なくなってくると、スッと立ち上がることが難しくなるとか、目をつぶってバランスをとることができにくくなる。つまり、男性ホルモンの働きが低下すること自体、転倒リスクを増加させることになる。
 
ビスフォスフォネート剤の投与で骨粗鬆症を予防することができる。最低年1回でかなりの効果が出るが、転移のある患者では、3カ月に1回投与するとか、毎月1回の頻度で投薬する必要がある。特に高齢者ではがんを治す、治さないよりも、恐らく非常に重要なことであろう。

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日経メディカル Cancer Review

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