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対談 [08 Summer]
消化器がん治療を展望する 日本はどこまで世界に寄与できるか

2008/06/18
日経メディカルCancer Review














胃がん治療研究における日本の歩みと役割

吉田 欧米では胃がんの症例は少ないので、日本の役割は大きいですね。

瀧内 日本には、これからはリーダーシップを取って世界を引っ張っていく責任があると思います。乳がんや結腸・直腸がんのキードラッグは海外のメーカーが開発したものが多いため、世界をリードする立場に立つのは困難です。しかし、胃がんのキードラッグは日本で開発されたTS-1ですし、同じく胃がんの発生頻度の高い韓国と共同で研究を進めれば、大きな成果が期待できます。

吉田 韓国では、TS-1ではなくカペシタビン(CAP)とCDDPの併用療法が用いられていますね。

瀧内 転移性胃がんの標準的治療法は、経口フッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ製剤というコンセプトでよいと考えます。CAP+CDDPは5-FU+CDDPに対する非劣性が証明されていますが、現在、Ajaniらによって進められている国際的第III相試験(FLAGS)は5-FU+CDDPに対するTS-1+CDDPの優越性の検証が目的です。FLAGSの結果によってはTS-1+CDDPが世界標準となる可能性があります。
 
韓国の研究者たちには、欧米と同じく多剤併用療法への志向が強くありました。しかし、SPIRITS試験のTS-1+CDDPによりMSTの記録が塗り替えられ、しかも初めて併用療法が単剤療法を凌駕したという事実により、日韓の壁が取り除かれたという印象があります。

吉田 日本の考え方の正当性が徐々に示されるのでしょうかね。

瀧内 すでに明らかになったと考えます。先のJCOG9912の背景となったJCOG9205では、5-FU単剤に対する5-FU+CDDPの優越性が示せなかったわけですが、いまとなっては5-FU単剤を見捨てずにこの試験に残したことの意義はきわめて大きい。欧米や韓国からは、単剤にこだわるなんて奇妙なことにみえたに違いありませんが、歴史を振り返れば着実に一歩ずつ進んできたことがわかります。

手術および補助化学療法の進展

吉田 胃がんの術後補助化学療法についても、日本からN-SAS-GC、ACTS-GCという質の高い試験の結果が報告されていますね。

瀧内 漿膜浸潤陰性胃がんを対象としたJCOG8801では、比較的早期の症例(T1)については術後補助化学療法は不要と結論されました。しかしサブセット解析でT2N1、T2N2で差が出るかもしれないという示唆が得られ、この結果を受けて実施されたのがN-SAS-GCです。試験期間中にTS-1が市販されたため症例の集積が途中で中止されましたが、UFTによる術後補助化学療法は生存期間を有意に延長することが示唆されました。そして、ACTS-GCでは術後補助化学療法におけるTS-1の有用性が確立されるとともに、D2郭清の意義が確認されました。

吉田 拡大手術がもたらすベネフィットはないことが示されるとともに、術後補助化学療法による遠隔転移の抑制効果が確かめられたわけですね。一定のルールに基づいて必要最小限の治療を行い、毒性の発現を最小限にするアプローチの意義を示した点で、これら一連の臨床試験の意義はきわめて高いといえますね。

瀧内 定型手術を確実に行える外科医と補助化学療法を安全かつ適切に実施できる腫瘍内科医が共同で治療に当たれば、同じ治療成績が得られる時代を迎えたといえるでしょう。予防的な拡大手術にはベネフィットはないことが明らかとなりました。


結腸・直腸がん
治療選択肢が増えたが、治癒を目指す段階には至っていない

吉田 胃がんと比較すると、結腸・直腸がんの領域では日本は欧米に比べずいぶん遅れをとっているようにみえますが。

瀧内 フッ化ピリミジン系薬剤とCPT-11しか使えなかったころは、欧米に比べ2周遅れという印象でした
が、その後オキサリプラチン(L-OHP)が使用できるようになり、分子標的治療薬BVが認可されて、ようやく1周
遅れまで近づいたところです。現在、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)を標的とするIgG1モノクローナル抗体セツキシマブ(C225)の承認申請が進められています。胃がんのように世界に向けて多くのエビデンスを発信するには至っていないのが現況です。

吉田 分子標的治療薬をはじめ有効な薬剤の開発はもちろん重要なのですが、その一方でブレークスルーとなるような投与法、投与スケジュールの開発が進んでいませんね。

瀧内 治療選択肢は増えたものの、まだまだ治癒を目指す段階には至っていない。有効な薬剤が出てきたので、それを上乗せしたらMSTが倍以上に延長したというだけで、治癒が得られるわけではありません。これは今後の大きな課題です。


経口フッ化ピリミジン系薬剤の評価について

吉田 FOLFOXやFOLFIRIは5-FUを持続静注する必要があるため、患者さんの負担が大きい。そこで、経口
フッ化ピリミジン系薬剤であるCAPとL-OHPを併用するXELOXなど、患者さんと医療者の双方にとって簡便なレジメンの検討が進められています。経口薬についてはどう評価されますか。

瀧内 日本では、L-OHPは持続静注5-FUとの併用しか認可されていません。経口薬とL-OHPの併用に関する医師主導の臨床試験が必要なのですが、難しいのが現状です。海外データを用いて申請できる可能性もありま
す。また、日本の日常診療でよく用いられるUFT/LVやTS-1とCAPを比較したデータはありませんが、これは日本の医師主導臨床研究を行う上で避けて通れない課題だと思います。
 
さらに、進行胃がんを対象にCPT-11とTS-1を併用するIRIS(塩酸イリノテカン+TS-1)レジメンとTS-1単剤を比較したTOP-002試験では、残念ながらIRISの優越性は示されませんでしたが、現在、切除不能結腸・直腸がんに対する2nd lineとしてIRISとFOLFIRIを比較する第III相試験が進行中です。この試験の結果が明らかになれば、TS-1と持続静注5-FU/LVの有効性についてある程度の推測が可能になるかもしれません。

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