日経メディカル Cancer Review

2008/6/18

対談 [08 Summer]

消化器がん治療を展望する 日本はどこまで世界に寄与できるか


消化器がんの化学療法の進展が著しい。長らく消化器がんの化学療法に携わってきた青森県立中央病院長の吉田茂昭氏と、この分野の気鋭の腫瘍内科医である大阪医科大学准教授・化学療法センター長の瀧内比呂也氏に、食道がん、胃がん、大腸がんにおける化学療法の最近の研究成果と分子標的治療薬の導入のあり方、世界の消化器がん治療における日本の貢献のあり方について語り合ってもらった。


吉田 かつて化学療法がほとんど無効であった消化器がんも、近年の臨床研究の目覚ましい進歩により、むしろ化学療法によく反応するがん種の1つとなりました。「副作用ばかりでほとんど効果のない化学療法を行うのは悪ではないか」とさえいわれていた時代からすると隔世の感があります。
 本日は、大阪医科大学准教授・化学療法センター長の瀧内比呂也先生をお迎えし、消化器がん治療の現況およ
び今後の展開についてお伺いします。

食道がん

現在の標準的治療法とは

吉田 食道がんの領域の化学放射線療法の進歩には著しいものがあります。今後、手術に代わり化学放射線療法が標準的治療法となる可能性はあるでしょうか。

瀧内 ともにstage II/IIIの進行食道がんを対象としたJCOG9906(化学放射線療法の第II相試験)とJCOG9907(術前と術後補助化学療法を比較する第III相試験)の結果を比較すると、3年生存率において術前化学療法+手術に比べ化学放射線療法が約10%強劣ることが示され、残念ながら化学放射線療法が手術に取って代わるというエビデンスは得られませんでした。また、JCOG 9907では、術前化学療法のほうが術後よりも優れることが示されました。これらの結果により、現在の進行食道がんの標準的治療法は術前化学療法+手術ですが、化学放射線療法も治療選択肢の1つになり得るものと考えます。

吉田 そうすると、これらの治療法を比較する第III相試験の実施は困難ですね。

瀧内 はい。3年生存率の差が10%程度であれば、優劣を追求するよりは、患者さんに情報を十分に提供していずれかを選んでいただくことのほうが重要です。化学放射線療法では食道が温存されるため、患者さんのQOLが良好というメリットがあり、今後も工夫を重ねる価値があります。

吉田 いずれにしても手術単独という治療戦略はなくなり、化学療法あるいは化学放射線療法を行ってから手術ということになりますね。

瀧内 そのとおりです。今後の課題としては、化学放射線療法後のサルベージ療法、再発した場合の手術のタイミングなどがきわめて重要で、予後を大きく左右することになります。

課題と今後の展開

吉田 食道がんの場合、頭頸部がんの領域で得られた知見を応用できる可能性があります。5-FUを経口フッ化ピリミジン系薬剤であるTS-1に変更したCDDP+TS-1に放射線療法を併用するアプローチが進められていま
すね(JCOG0604)。

瀧内 TS-1に含まれる成分に放射線増感作用があることが指摘されています。本研究は日本臨床腫瘍研究グループを中心に医師主導型の臨床試験として進行中で、ある程度の成果は上がっているようです。

吉田 最新の治療戦略として、CDDP+TS-1+分子標的治療薬と放射線療法の併用アプローチは考えられますか。

瀧内 当然、あり得ますが、ベースとなる化学療法レジメンをどうするかなど、事前に検証すべき課題が数多く残されています。

吉田 日本は欧米に比べ放射線療法が立ち遅れています。せっかく優れた化学放射線療法のレジメンが確立されても、施行できる放射線治療医がいないという事態にもなりかねません。

瀧内 昨年、文部科学省の主導で「がんプロフェッショナル養成プラン」が始動しました。これが実を結べば、それなりの数の放射線治療医が誕生すると期待されます。

胃がん
日本および欧米における化学療法の治療戦略の違い

吉田 胃がんは日本の国民病といわれるほど、欧米に比べて頻度が高いがん種です。以前は、化学療法の奏効率は改善されても、生存期間中央値(MST)が延長するというエビデンスがなかなか得られませんでした。何が現在の目覚ましい進展への契機となったのでしょうか。

瀧内 個人的には、TS-1の登場が大きな節目になったと考えます。TS-1を使用することで、外科医が化学療法の手応えを実感して積極的に取り組むきっかけになったと考えられます。もう1つの大きな節目は、臨床試験グループの組織化です。日本を代表するJCOGのほか、各地に小規模ながらも質の高い臨床試験グループが誕生し、積極的な取り組みが行われるようになりました。

また、時を同じくしてタキサン系薬剤の承認や、結腸・直腸がん領域で塩酸イリノテカン(CPT-11)のエビデンスが提示され、胃がんにおける化学療法の役割が実感されるようになりました。これらが、その後の大きな進歩につながったと考えられます。

吉田 日本と欧米では治療戦略に大きな違いがあるようですが。

瀧内 欧米には1st line治療で有効な薬剤をできるだけ使い切るという考え方があり、これには保険制度も影響しているようです。それに対し、日本では有効な薬剤を1st line、2nd line、3rd lineと分けて用いるアプローチも幅広く取り入れられています。

米国では、M.D.アンダーソンがんセンターのAjaniらがCDDP+5-FU(CF)とドセタキセル(DOC)+CDDP+5-FU(DCF)の比較を行い、3剤併用療法の有効性が優ることを示しました。しかし、DCFは重篤な有害事象の頻度が高く、MSTは従来の2剤併用とそれほど変わらず、2nd lineへの移行率が低いなどの問題があり、あまり普及していません。

吉田 日本のJCOG9912は、切除不能・再発胃がんを対象に5-FU単独療法に対するCPT-11+CDDP併用療法(CP)の優越性、およびTS-1単独療法の非劣性の検証を目的とした無作為化第III相試験です。結果は、TS-1の非劣性は証明されましたが、CPの優越性は示されませんでした。
 
全生存期間と無進行生存期間(PFS)の差は2nd line以降の治療の生存ベネフィットを表しますが、この値がJCOG9912の3群はいずれもAjaniらの試験のDCF、CFより優れています。また、MSTも同様にJCOG9912の3群がDCF、CFを凌駕しています。すなわち、AjaniらのDCFはPFSは長いのですが、MSTがきわめて短く、全体としてはJCOG9912のほうが、全生存期間が長くなっていますね。

瀧内 個人的には、進行胃がんの場合、有効な薬剤は3剤あれば1剤ずつ、あるいは2剤で治療を開始したのち1剤で治療するという戦略がよいと考えています。

吉田 現在のMSTの世界最長記録は、日本のSPIRITS試験でTS-1+CDDPが達成した13か月です。このエビデンスにより、日本ではTS-1+CDDPが進行胃がんの1st line治療における標準的治療法として確立されました。今後はどのような方向性が考えられるでしょうか。

瀧内 吉田先生がよくおっしゃるように、つきつめれば「治癒(cure)を目指さない治療はだめ」という考え方が重要と思います。現状では、延命効果は得られても、治癒を目指す段階には至っていません。分子標的治療薬に期待がかかりますが、新規薬剤の開発もきわめて重要な課題です。

(次ページに続く)
(日経メディカルCancer Review)
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