日経メディカルのロゴ画像

特集 学会リポート1・第96回日本泌尿器科学会総会より [08 Spring]
パネルディスカッション 進行腎細胞癌に対する分子標的治療薬の役割 -治療の個別化に向けて-         腎細胞がん新薬への期待と課題

2008/06/18
日経メディカルCancer Review

シンポジウム「日本の前立腺がん検診を考える」より

課題はPSA 検査を活かした医療づくり


昨年9月に厚生労働省の研究班が作成中のドラフトの「前立腺がんのPSA検診は対策型検診として推奨しない」
という内容が明らかになると、泌尿器科医師らを中心に反発の声があがった。日本泌尿器科学会総会シンポジウム「日本の前立腺がん検診を考える」では改めてこの問題が取り上げられた。PSA検診の維持で学会の主な声は一致しているが、なお課題を指摘する声もあがった。前立腺がんの自然史、PSAの特性に合致した診療体制はまだ整備途上という指摘もあった。

 厚生労働省の研究班が否定したのは、昨年9月10日に厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班が公表した「有効性にもとづく前立腺がん検診ガイドライン」のドラフト。この中で研究班は、「前立腺がん検診について現在のところ前立腺がん検診を対策型検診として実施することは勧められない」とし、人間ドックなどの任意型検診についても「効果が不明であることと過剰診断を含む不利益について適切に説明する必要がある」という実質的に否定的な見解を示した。
 
研究班内部では、答申の内容をめぐって、疫学研究者のグループと東京厚生年金病院泌尿器科部長の赤倉功一郎氏ら泌尿器科医グループとの対立が先鋭化、泌尿器科医らが研究班を脱退する事態に発展した。「研究班は最後にはバトルのような状態になった。そもそも検診では、胃がんや大腸がんなど先行したがん検診があるのに、なぜそれらの評価の前に前立腺がんに白羽の矢が立ったのか、理解できない」と赤倉氏がシンポジウムで発言するまで、両者のミゾは深まった。
 

研究班のドラフトが公表されると、日本泌尿器科学会ではホームページに反論の声明を掲載し、さらに研究班の結論とは一線を画すガイドラインを作成し、4月1日に発行した。作成の中心となった九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野教授の内藤誠二氏は学会のガイドラインを「学問的な見地から最新、世界標準、実用的」と胸を張った。
 
前出の赤倉氏は「疫学の先生方の考えの問題点は4つ。①検診が普及しているにも関わらず前立腺がんによる死亡率が低下しないことだけを問題にしたこと②内外の臨床研究のエビデンスのレベルの捉え方に偏りがあったこと③検診による過剰診断、生検・治療による合併症を古い論文をもとに過剰に重視した④検診を推奨しないという結論を打ち出すことによる社会的な影響について考慮しなかったーー」と指摘した。
 
罹病期間が10 ~20 年にのぼる前立腺がんでは、死亡率の低減効果を検証することは簡単なことではない。観察期間中に治療法が進歩すれば、さらに困難になる。しかも、検診を受診している被験者は全体の3~5%に過ぎないという現実がある。

世界の疫学研究の評価をめぐるミゾ
 
 前立腺がんが最も主要な男性がんとなっている米国では、前立腺がん検診の受診が推奨され、今では50 歳以上の男性の75%が検診を受けている。この結果、前立腺がんによる死亡率が1990 ~1992年をピークに減少に転じ、2003年の米国における前立腺がんの死亡率は1990 年に比べて31%低下し、世界的に注目されている。カナダの「ケベック研究」、オーストリアの「チロル地域の研究」などでは死亡率の減少効果も報告されている。

チロル地方では、45 ~75 歳の住民に対して無料のPSA検査を提供、対象者の2/3が受診するなどの普及に成功、この結果1998 年の実測前立腺がん死亡者は予測値に比べ42%低下したと報告されている。しかし、厚生労働省の研究班はこれらの報告をいずれも質が悪いRCT(無作為化比較対照試験)として軽視し、総合して世界の研究に一貫性がなく、エビデンスのレベルが低いと結論している。
 
群馬大学大学院泌尿器病態学の伊藤一人氏は、「これら疫学研究のレベルの高さは世界的に受け入れられている。しかし、研究班はレベルの低い、反対の結論の研究も同等に扱い、結果的に本当に質が高い研究の評価を低くしてしまった」と憤りを隠さなかった。
 
臨床家たちの“ 怒り”を買ったのが、研究班が死亡率の低減効果にこだわって、骨転移の位置づけを軽視したと思われることだ。前立腺がんは自覚症状が出た段階で受診してもその30%に骨転移が見られる。骨転移がない段階で発見できる有力な方法の意義は高いということで泌尿器科医らの意見は一致している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日経メディカル Cancer Review

この記事を読んでいる人におすすめ