日経メディカル Cancer Review

2008/6/18

特集 学会リポート1・第96回日本泌尿器科学会総会より [08 Spring]

パネルディスカッション 進行腎細胞癌に対する分子標的治療薬の役割 -治療の個別化に向けて-         腎細胞がん新薬への期待と課題


進行腎細胞がんの治療薬として分子標的治療薬ソラフェニブ(ネクサバール®)とスニチニブ(スーテント®)が欧米に続き日本国内でも相次いで承認された。奏効率やPFS(無増悪生存期間)などで従来のサイトカインを上回る効果が期待される。一方で、長期使用の是非、多彩な有害事象の制御、人種差の有無など未解決の課題も多い。日本泌尿器科学会のパネルディスカッションでは、日本導入に当たってどのような点に注意すべきかが討論された。

 腎細胞がんには腫瘍内の血管が豊富という特徴がある。これは、腎細胞がんの50~60%でvon Hippel-Lindau病の原因遺伝子であるVHL遺伝子に変異が存在し、この遺伝子の機能が低下していることと深い関係がある。VHL遺伝子変異こそが、腎細胞がんに分子標的治療薬が効果を発揮する最大の理由である。
 
今年、相次いで承認されたソラフェニブやスニチニブはVHL遺伝子変異を伴う腎細胞がんに有効な治療薬で、転移性腎細胞がんでは欧米で第1選択薬となっている。2剤とも国内で行われたフェーズⅡ試験と欧米で実施されたRCT(無作為化比較対照試験)のデータをもとに審査され承認された。「これまでの日本の標準的治療であるインターフェロンαやインターロイキン2(IL-2)の奏効率は10~20%とされるが、分子標的治療薬では、インターフェロンαやIL-2に抵抗性となった症例の50~80%で腫瘍縮小が認められると報告されている。

一方で注目すべきは、国内の臨床試験がフェーズⅡという限られた患者数を対象としたものであること、加えて長期的に継続的に使った成績がまだ欧米でも出ていないということだ。こうした点を注意しつつ、使用していく必要がある」と慶應義塾大学医学部泌尿器科学教授の大家基嗣氏は指摘している。

手足症候群や高血圧への注意が必要
 
分子標的治療薬は予期しない副作用や有害事象が出現することが多いので、使用期間中、使用後も注意する必要がありそうだ。次ページの表1は国内外の使用経験から選択した有害事象の例だ。同じような作用機序を持つ2剤でありながら、副作用のプロフィールは少し異なっている。

ただし、これは今までの使用経験の結果であり、日本で本格的に使用された場合、欧米で問題にされた有害事象がほとんど生じない場合もあれば、逆にまったく予想外のものが出現する可能性もあり得る。

分子標的治療薬では有効性や有害事象について人種差が出現することは珍しいことではない。パネリストの1人、University of Southern Californiaの腫瘍内科医のDavid I.Quinn 氏は、「まだ症例数は限られているが人種差があるようだ」と指摘している。Quinn 氏は、「米国在住のアジア人を対象にした使用経験から、手足症候群と高血圧がコーカサス人種よりも高頻度で現れるようだ」と語る。

手足症候群は、手足の圧力のかかる場所に多く発生する皮膚障害で、悪化させると歩行困難などのQOLの低下を余儀なくされる。「用量を減らすなどの処置が必要になるが、これで治療ができなくなることはない。またソラフェニブでは手足症候群を発症した患者ほど奏効する傾向が認められる」と同氏は指摘する。

日本の治療成績は米国を上回る
 
「欧米での第1選択薬の導入であり期待は高いものの、日本の治療成績が飛躍的に上がるかというとまだ結論できない」と山形大学医学部腎泌尿器外科学教授の冨田善彦氏は慎重だ。その理由の1つは、分子標的治療薬が導入される以前の段階において、米国を上回る治療成績を上げていたためだ。

このたび、日本国内の40の医療機関が参加して、1,463人の転移性腎細胞がんの予後を調べる臨床研究が実施された。その結果、日本の患者は米国をはるかに上回る全生存期間(OS)を記録していたことが明らかになった。米国のOSの中央値は306日内外と報告されているが、今回の臨床研究では642±33日と2倍以上に達していた。1年生存率では米国30%に対して日本は65%、3年生存率では米国15%に対して日本は35%、5年生存率では米国5%以下に対して日本は23%という結果が出た。日本の転移腎細胞がん治療は何ゆえにかくも優秀なのだろうか。

 研究の取りまとめにあたった冨田氏は、日本の腎細胞がん医療が優れている点として①泌尿器科医主導の手術を含めた総合的な治療の施行②サイトカインによる積極的な治療③長期の定期的なフォローによる転移巣の早期発見ーーの3点を挙げた。
 
腎細胞がんは治療を終えても10年以上を経過して発症してくることが珍しくない。定期的に来院して診察する医療スタイルがOSの改善に大きく寄与している。
 
 ここに、分子標的治療薬が入ってくる。冒頭の有害事象への配慮は当然として、どのような患者にどのように使っていくべきだろうか。特にサイトカインとの使い分けはどうすればよいだろうか。

(次ページに続く)
(日経メディカルCancer Review)
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