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ルポ がん医療の現場 [08 Spring]
患者登録、レジメン管理、市販後調査も これ1つ電子カルテから医療情報をリアルタイムに抽出

2008/06/18
日経メディカルCancer Review

日常の診療情報は医療機関の経営資源
 
では、こうした好環境に恵まれない医療機関にはどのような選択肢があるだろうか。1つはシステム構築の初期費用を投資と割り切ることだろう。これはこのシステムの導入の如何に関わらず、日々生産される医療情報を新たな収益源とするように発想の転換を図る必要がある。既に臨床治験の受託は大手の医療機関にとって診療報酬とは別の有力な収益源とみなされているが、日々の診療から抽出される情報も集計し、解析することによって新しい価値を生み出せる可能性が高い。
 
がん化学療法の新薬といえば分子標的治療薬が主流になっている。こうした薬剤では多彩な有害事象が問題となっており、ほぼすべての新薬が市販後全例調査の対象になる。日本国内の臨床試験では報告されなくても、海外で報告された重篤な有害事象は重点調査項目になるケースが増えている。こうした、非常にまれだが重篤な有害事象の情報をリアルタイムで収集するには、CyberOncologyのようなシステムが重宝するはずだ。
 
さらに、利用拡大の上でその追い風になると期待されるものにCDISC(Clinical Data Interchange StandardsCosortium)の普及がある。
 
米国では治験データの電子交換仕様を標準化する動きが進んでいる。その中心的な役割を果たしてきたのが非営利団体のCDISCだ。既にCDISCが構築を目指す標準的なデータ交換モデルの完成度は高い。米食品医薬品局(FDA)も米国での新薬申請では、製薬会社にその利用を推奨しており、規制当局への申請スタイルとしては実質的に世界標準になりつつある。CDISC標準の導入は新薬の申請だけではなく、病院情報システムから必要な医学研究データを自動収集できるようになると見られている。CyberOncologyもCDISCに対応したデータの互換機能を加えることを将来計画に持っている。
 
日本国内では未承認医薬が大きな問題となっているが、その原因の1つは行政と製薬企業との情報交換の遅れであると指摘されている。行政当局、製薬業界、医療機関が診療データを交換し、情報を共有するシステムの必要性が叫ばれている。複数の業界をまたいでデータ連携を行う場合に必ず標準の介在が必要になる。「医療と製薬をつなぐ標準データ連携規約としてCDISCの普及に期待している」と山本氏は指摘している。

 市販後調査など医療機関からの情報をリアルタイムに知ることの重要性を製薬企業が認識するようになれば、
こうしたCyberOncologyのような電子臨床研究システムの導入に拍車がかかる可能性は大きい。
 
福島氏は、医療機関も行政当局も製薬会社もすべてが患者の生存期間を延長することに徹するべきであり、そのための有力なツールがCyberOncologyであると語る。同氏は、将来このシステムから多くの良質な臨床研究が量産されると力説する。
 
「もう研究のための研究を行う必要はない。とにかく、臨床に徹していれば、データはおのずと出てくる。そうすれば、論文を書くことが間に合わないほどのデータが集まるものだと医局員たちには言ってきたが、既に状態になりつつある」

「市販後調査のコストもいずれゼロにできる」
 
電子カルテや電子オーダリングシステムが普及してきたが、そこから2次利用できる情報を抽出する機能がまだまだ足りないシステムが多い。CyberOncology は、日常診療の記録を取りながら、レトロスペクティブに効率的に情報を集めることができるシステムとして開発、この外来化学療法部が稼動した2003 年から運用している。医療カンファレンスもCyberOncology の画面を使って、ペーパーレスで行っている。
 
臨床研究をやろうというときに、日常診療とは別個にプロトコルを立ち上げて、データ解析システムを新たに構
築するという現在の標準的なやり方は経済的、人的な負担が大きい。電子カルテと連動させれば、負担は軽くな
り、市販後調査のコストやタイムラグなんかもゼロにできる。臨床試験の費用もゼロにすることができる。SNP など遺伝子上の変異を薬剤感受性マーカーにしようという研究も、こうしたシステムを使えばよりはっきりした結果を短時間であげることができるはずだ。遺伝子研究のボトルネックはなんといっても患者のフェノタイプの把握にあるわけだから。
 
治療にともなう危険因子や予後決定因子の割り出しも簡単にできる。その結果、いろいろ興味深いデータが集まってきている。全生存期間の予測因子として意外な生化学マーカーが浮上してきたり、一見関係がない免疫が重要な因子であることが判明している。多くの施設で利用し、ネットワークを作ることができればさらにいろいろなことがわかるはず。例えば、施設間格差を決めている要因なども明らかにできるかもしれない。(談)

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