日経メディカル Cancer Review

2008/6/18

インタビュー [08 Spring]

胃がんの分子 標的治療薬の最新事情 鍵握るア ジア諸国との連携国立がんセンター東病院・臨床開発センター長、通院治療部長  大津敦氏


◎ Profile
大津 敦(おおつ・あつし)氏  1983 年、東北大学医学部卒業。いわき市立総合磐城共立病院、国立がんセンター中央病院内科を経て、99年に国立がんセンター東病院内視鏡部消化器内科医長。同内視鏡部長を経て通院治療部長。08年4月からは臨床開発センター長を兼任。


分子標的治療薬の導入が課題の胃がんで国際共同試験が進展している。一方で日本の臨床研究の基盤の脆弱さも指摘されている。大津氏は、一層の国際化のためには国内の病院がそれぞれ研究基盤を充実させる必要があると力説する。

――胃がんの化学療法について、昨年は大きな動きがありました。

大津 ACTS-GCの成果が報告され、ステージⅡ、Ⅲで術後補助化学療法にTS-1単独療法が標準治療となりました。また進行再発胃がんでは、日本臨床腫瘍研究グループのJCOG9912によりTS-1単独の有用性が、SPIRITS試験ではTS-1+CDDP(シスプラチン)療法がTS-1に較べて有効で忍容性も優れていたことから、TS-1+CDDP療法が標準治療になりました(関連記事34ページ)。

術前化学療法の可能性

――今後の課題としては、どのようなレジメンを検討していく必要がありますか。

大津 術後補助化学療法では、進行再発と同様にTS-1+CDDPが検討されています。5施設で予備的な試験を進めていますが、手ごたえがあれば、参加施設を増やして本格的に進めることになります。ただし、ACTS-GCではTS-1単独でも高い成績が出たので、CDDPの上乗せ効果を明らかにすることは容易ではないでしょう。ステージⅢに限定するなどの方策が必要になるかもしれません。ほかには、術前化学療法としてTS-1+CDDPを評価する試験が進行しています。


――術前化学療法の検討ですか。先生はどのように考えていますか。

大津 私は、検討した方が良いと思います。今年のASCO-GIでは、東京歯科大学市川病院外科部長の安藤 暢敏氏(教授)らが、食道がんでは5-FU+CDDPを術後で行うよりも術前で行う方が、成績が良くなるとう、JCOG9907を報告しています。この結果には私もびっくりしました。当然、胃がんでも検討されるべきだと思います。
 
ACTS-GCではTS-1を服用する患者の数が、時間の経過とともに少なくなってきました。一般的に術後補助化学療法では、患者の服薬コンプライアンスが大きな課題になります。手術の後は体力も低下しているわけですから、患者にとっても術後補助化学療法というのは、負担であることも事実です。

――進行再発における今後注目の試験は?

大津 JACCRO(非特定営利法人日本がん臨床試験推進機構)が日韓共同研究として行っているTS-1+ドセタキセルvs.TS-1ですね。今年、登録が終了される予定ですから、2~3年後のASCOで報告されることになるでしう。


分子標的治療薬の臨床研究が続々

――細胞毒性タイプに加えて、分標的治療薬の胃がん治療への期待が大きいですね。

大津 分子標的治療薬の評価は一番重要な課題です。世界的に、フッ化ピリミジン系薬剤(5-FUやTS-1、カペシタビンなど)+プラチナ製剤(CDDP、オキサリプラチンなど)に分子標的治療薬を上乗せするプロトコールが検討されるというのが主流ですね。
 
乳がんで使われているトラスツズマブ(カペシタビン+CDDP±トラスツズマブ)と、大腸がんで使用されているベバシズマブ(AVAGAST、カペシタビン+CDDP±ベバシズマブ)の胃がんに対する適応拡大試験が国際試験に参加する形で進んでいます。いずれも、国際共同試験で、年内に症例登録が終わる見込みです。

――年内に症例登録が終わるというのは、普通の臨床研究と比較するとずいぶん早いという印象を受けます。

大津 国際共同試験ですから、早いですよ。結果はJACCROと同時期くらいに明らかになるでしょう。トラスツズマブはHER2抗原を標的にした抗体医薬ですから、もともとHER2陽性患者は20~25%と少ないので、1つの国だけで評価することは無理な話です。国際共同試験への参加は重要です。
 
HER2受容体を阻害する低分子薬ラパチニブの評価も始まっています。パクリタキセルにラパチニブの上乗せ効果があるかどうか、すなわちパクリタキセル±ラパチニブについては、アジアの国際共同試験として進めています。

――日本では未承認ですが、海外ではラパチニブはトラスツズマブ抵抗性の乳がん患者に使われていますが。

大津 胃がんでも事情は同じです。トラスツズマブ抵抗性となった胃がん患者を中心にラパチニブの有効性を検討しています。あと、腎細胞がんの分子標的治療薬として承認されたソラフェニブと、近く承認されるとみられるスニチニブも進行再発胃がんでの臨床試験が始まっています。ソラフェニブはTS-1+CDDPとの併用効果を検討する計画です。
 
私は、直接スニチニブの試験に関与していませんが、この薬剤には有害事象として骨髄抑制作用が報告されています。先ほど、分子標的治療薬のパートナーになることが多いと説明したフッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ製剤でも骨髄抑制が問題になりますから、有害事象のプロファイルが重なる組み合わせをどのように使っていくのかという点を注目しています。
 
また、やはり腎細胞がんの分子標的治療薬としてmTOR阻害剤のRAD001がありますが、こちらも胃がんでフェーズⅡ試験が進行しています。

(次ページに続く)
(日経メディカルCancer Review)
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