日経メディカル Cancer Review

2008/6/16

化学療法アップデート [08 Spring]

慢性骨髄性白血病活発化するポスト・イマチニブ開発戦争


愛知県がんセンター名誉総長・愛知淑徳大学医療福祉学部教授
大野竜三氏

 分子標的治療薬メシル酸イマチニブの登場で一変した慢性骨髄性白血病(CML)の治療。一定の頻度でイマチニブ抵抗性となる患者が出現するが、それらを治療するために第2世代、第3世代の分子標的治療薬が開発されている。白血病の専門家である大野竜三氏は、CMLで確立された化学療法の方法論は固形がんの治療にも取り入れられるはずと指摘する。

 白血病は急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML;Chronic Myelogenous Leukemia)、慢性リンパ性白血病(CLL)の4タイプに分かれる(表1)。この中でCMLは、成人に多い点が特徴で、日本国内では年間1000~1500人の患者が発生する。このCMLには、9番と22番染色体の相互転座t(9;22)により形成されたbcr/abl融合遺伝子が認められる。この転座が見られる染色体がいわゆるフィラデルフィア染色体(Ph染色体)である。

 bcr/abl融合遺伝子の産物BCR/ABLたんぱく質では、ABLが本来持っているチロシン・キナーゼが恒常的に活発化される結果、細胞が死ににくくなっている。融合遺伝子bcr/abl遺伝子が導入された細胞は自発的細胞死アポトーシスが抑制され、さらにbcr/abl遺伝子を導入されたトランスジェニックマウスではCML様白血病を発病することがいずれも1990年に報告され、bcr/abl融合遺伝子がCMLの原因であることが完全に証明された。また、Ph染色体は一部のALLにも見られ、このようなALLではCMLと同じ分子標的治療薬の適応となる。

慢性期CMLは化学療法で制御急性転化後は造血幹細胞移植

 CMLには、慢性期、移行期、急性転化期があり、ほとんどの症例は白血球や血小板が異常に増加した慢性期に発見されるが、最近は健康診断時や他の疾患の血液検査で偶然発見されるケースが増えている。慢性期で増加している白血球細胞は正常に近い機能を有しているため、発病していてもほとんど症状はなく、普通生活を送ることが可能である。

 治療もハイドロキシウレアやブスルファンなどの化学療法(後述する分子標的治療薬が登場する以前の化学療法薬)で容易に制御できる。しかし、これら化学療法では、4~5年の経過で移行期に至る。移行期では貧血、易疲労感、発熱、骨痛などの症状が出現する。その後数カ月で急性転化するが、この病期となると、化学療法に抵抗性であり、造血幹細胞移植でしか長期生存が得られないことが普通である。

 造血幹細胞移植を慢性期に行うことができれば、60~70%の頻度で治癒可能である。だが、造血幹細胞移植は煩雑な医療行為であるうえ、よく知られているようにドナーの確保が依然として大きな課題である。一方インターフェロンα(IFNα)でもPh染色体の消失した患者では70%強の患者で長期生存は可能である。しかし、副作用が強く、長期間の皮下注射が必要となる。さらに、IFNαの作用機序が明確でないという点も臨床現場では若干の不安の種といえよう。

 造血幹細胞移植やIFNαは現在のCML治療でも非常に重要な治療手段であることに変わりはないが、分子標的治療薬イマチニブの登場によって、CMLとりわけ慢性期CMLの治療風景は一変した。

(次ページに続く)
(日経メディカルCancer Review)
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