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[特集]輸液療法 [07 Winter]
がん緩和ケアの味方にも敵にもなる その輸液、過剰では?

2008/01/10
日経メディカルCancer Review

 がん緩和ケアを進める上、輸液療法の巧拙が鍵を握る。「食べられなくなったから輸液」では悪疫質を促進し、患者のQOLを低下させ、生存期間を損なう結果を招きかねない。悪疫質の発生メカニズムを理解した正しい輸液療法の推進が必要になる。

 がんの終末期において、輸液は大きな意味を持つ。しかし、悪液質症候群の状態では、患者の体内で急性期炎症性サイトカイン(インターロイキン6:IL6など)が高値となっていることが多く、これが原因となって輸液が医療者側の本来の意図を逸脱し、ひどい場合は患者の予後に重大な悪影響を及ぼすことすらある。

 次の症例は、癌研有明病院緩和ケア科部長の向山雄人氏が過去に体験したものだ。

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〈症例〉57歳、女性、PS4、再発卵巣がん
主訴:呼吸困難、疼痛、浮腫前医で中心静脈栄養(TPN)1800ml/日と塩酸モルヒネ800mg/日をTPNに混注されていた。胸水、腹水、全身浮腫が強く出現、モルヒネによっても除けない神経因性疼痛も出現していた。

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 向山氏は、酸素、アルブミン、利尿剤、副腎ステロイド、抗不安薬を投与。TPNを700ml/日に減量、NSAID静注に切り替えた。さらにケタミンやリドカインなどのドラッグチャレンジテストを実施したうえで、塩酸モルヒネ80mg/日とケタミン150mg/日を側管からの持続静注とした。その結果、胸水と全身の浮腫はほぼ消滅、腹水と神経因性疼痛も大幅に減少した。

 「この症例は大変象徴的な症例で、患者が経口摂取できないからという理由で中心静脈栄養(TPN)を使用する場合に十分に注意する必要がある。適応を誤れば最悪の場合、悪液質が進展して患者の生存期間を損なう事態もあり得る」と向山氏は警告する。「輸液の減量により気道分泌、浮腫、胸水、腹水の改善が見込め
る。1000ml/日を目安に考えるべき」

 図1に示すように、輸液を行う場合に適切な投与経路であるかどうかを吟味する必要がある。この症例では当初の塩酸モルヒネの使用にも問題があった。モルヒネで痛みが取れない神経因性疼痛であったにも関わらず、除痛できないことからモルヒネが増量されていた。

がん悪液質症候群により細胞外液量が増大している状態で輸液を行うと全身の浮腫などを亢進させることになる。※モルヒネが「サード・スペース」に移行してモルヒネの働きが減弱

がん悪液質・消耗疾患症候群ではインターロイキン6などのサイトカインの役割が注目されている。このため、こうしたサイトカインを中和することによって症状を緩和できるのではないかとして基礎研究が始まっている

サイトカインの役割が注目される悪液質の新しい病態像

 がん悪液質について、日本緩和医療学会では、「悪性腫瘍の進行にともなって、栄養摂取の低下では十分に説明されない、るいそう、体脂肪や筋肉量の減少が起こる状態」と定義している。以前は、増殖の旺盛ながんにより、栄養が奪われ、さらにトキシンの分泌によって食欲が低下することが加わる一種の飢餓状態と考えられていた。したがって、栄養の補給のため、積極的な輸液療法が推奨されてきた。しかし、原因究明が進み、最近の悪液質に関る考えが様変わりしている(図2)。最も大きな違いはサイトカインや増殖因子の関与が重視されてきたことだ。IL6などの炎症性サイトカインや血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌ががん悪液質の病態をより複雑なものにしている。

 例えば、IL6や腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインは薬物代謝酵素(P450)の機能を抑制する。この結果、薬物の血中滞留期間が延長され、それだけ副作用の発生リスクを高めることになる。P450の1つであるCYP3A4で代謝を受ける薬剤には、カルシウム拮抗薬やステロイドのほかにタキサン系抗がん剤、シクロフォスファミド、ビンクリスチンなどがある。

 VEGFは腫瘍血管の増殖因子として有名だが、血管透過性を増強させる働きも強い増殖因子でもある。悪液質の状態ではサイトカインの刺激を受けてVEGFも高値となることから血管透過性も上昇し、体液、リンパ液、アルブミンの漏出が起きやすくなる(図3)。

 一方で、たんぱく質合成機能も低下、血中アルブミンも低下するために、やはり漏出に拍車がかかった状態になる。その結果、TPNは“過剰輸液”に陥りやすく、前出の症例のように全身の浮腫亢進、胸水や腹水の増加につながる。さらに塩酸モルヒネも漏出するために疼痛効果が弱くなるといった事態も起こる。

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