日経メディカルのロゴ画像

トピックス1 [07 Winter]
受け皿なくしてネットワークなし
日本癌治療学会が病診連携で議論

2007/12/21
日経メディカルCancer Review

 積極的な治療を終えた患者への医療を在宅に移行させる試みが盛んだが、病院と診療所のネットワークの不備ががん難民を生み出す結果を招きかねない。こうした病診連携のあり方をめぐって、日本癌治療学会総会(10月24~26日、京都市)ではシンポジウム「緩和医療における医療施設の連携」が開催された。席上全国の先進的な診療所の取り組みが紹介され、ネットワークが十分機能するためには、受け皿となる診療所側の医療の質に大きく依存することが明らかになった。

 とりわけ、病院側から診療所に患者をスムーズに受け渡しするための退院支援、さらに在宅に移行した後で容態が悪化した場合の一時緊急避難として病院を利用する“レスパイト”システム、病院側と診療所側の患者の情報の共有、さらに日々進展する緩和医療技術にキャッチアップするための診療所側の努力などのそれぞれの重要性が指摘された。

日本癌治療学会総会・シンポジウム「緩和医療における医療施設の連携」では全国の先進的な診療所の取り組みが紹介された

在宅医療を脅かす介護の破綻
緊急避難サービスがあれば…


 千葉県で在宅ホスピスのあおぞら診療所を運営する川越正平氏は、在宅への移行を「地域という病棟に転院する」ととらえ、また地域の中で患者自らが最期の場所を選ぶことができる街角ホスピスの概念を提唱、積極的な在宅医療を展開している。しかし川越氏によると、初診から死亡まで中央値で40日と短く、在宅ホスピスとしての機能を十分発揮できていない現状が報告された。同氏は「退院させる病院側が有効な医療手段がなくなった後も長期間、入院させていることが原因」と病院側が積極的に退院支援に乗り出す必要性を強調、その具体的な手段として、再発やオピオイド製剤の使用が始まった時点で、退院支援対象患者として登録する仕組みづくりを提唱した。

 さらに、せっかく在宅に移行しても31%が再入院となるという自らのデータを示し、「この背景には患者を介護している家族が疲弊することによって、在宅ケアを断念する介護の破綻がある」と指摘した。この解決策として、地域の医療施設を一時的な避難施設として活用するレスパイト・システムの構築の重要性を訴えた。

 また患者の容態の急変にも病院側の積極的な関与が必要であると指摘した。川越氏の地元にある国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の緩和病棟が今年4月からオンコロジーエマージェンシー専門に特化したことを「大変助かっている」と歓迎した。同病棟は施設型ホスピスの代表であったが、こうした変身にもホスピスが施設から在宅へと姿を変えつつあることの象徴と見ることができそうだ。

病院と診療所の間で必要な
サービス競争という考え


 なぜ、病院から地域診療所に患者の受け渡しがスムーズにいかないのか。この疑問に「それは診療所の力不足」と直言したのが宮城県で在宅診療所ネットワークを主宰する爽秋会岡部医院の岡部健氏だ。10年前に東北大学加齢研究所の外科医から開業した岡部氏は、これまでに1000例以上の患者を看取った経験から、「在宅での終末期医療は可能であり、質の高い病診連携ネットワークこそが鍵を握る」とした上で、「基本的には在宅医療の質をめぐる、病院と診療所のサービス競争であり、病院に勝るケアを提供できれば、患者は口コミなどを通じて自然と在宅に移行する」と語った。

 岡部医院は医師6人、看護師20人、鍼灸師3人などの多くの医療スタッフを抱える。シンポジウム終了後、本誌記者に対して「サービスの質では病院に負けない」と胸を張った。

 同氏によると、病診連携で最も大きな障害になるのが患者にかかわる情報のギャップ。そこで、岡部氏は全職域が患者の電子カルテを閲覧できるなどのシステムを構築している。こうしたIT技術を積極的に活用するために専門のスタッフも2人いるという。また、地域にそれぞれ、熱心に在宅終末期医療に取り組むコアな医師を1人は必要とも指摘した。

精神科医や皮膚科医も往診する
長崎県の試み


 長崎市の白髭内科医院院長の白髭豊氏は、在宅死が8%前後で、全国の12.8%に比べ少ない長崎県の現状を改善しようと、医師会単位で、在宅患者への往診を行うネットワーク長崎在宅Drネットを主宰している。「長崎は坂が多く、自動車で患者の自宅に横付けできないという地域的なハンディキャップを負っている。このため、在宅に移行してしまうと医師が診に来てくれなくなるという不安から退院に消極的になる患者や家族が多い」という。

 複数の医師で患者を診るネットワークを作り、特に必要に応じて、皮膚科や眼科医なども主治医と一緒に往診することにしているという。さらに最近は、焦燥や不安が強い患者のために精神科医が往診することもあるという。こうした、主治医を孤立させない医療体制を構築することが在宅医療への対応を息の長いものにするために欠かせないシステムと強調した。また、日々進歩する緩和医学の最新情報を吸収するために、定期的な勉強会も欠かせないとしている。

まずは地道な努力を応援する
病院側、医師の側の意識改革も必要


 シンポジウムを司会した国立がんセンター中央病院院長の土屋了介氏は、「病診連携や地域連携というと、どうしても概念先行に陥りがち。まずは、地域で地道に在宅ホスピス、在宅療養にかかわっている医療機関を応援していくことが重要」と指摘した。また同じく、司会に当たった東海大学医学部教授の江口研二氏は、今回のシンポジウムで取り上げたような診療所のなどが全国に増えていくことが現状を変えていく近道であるとの認識を示した。

 シンポジウムでは、病院で積極的な治療に取り組む医師に緩和医療に対する関心の薄さを改善するために、「卒後研修に緩和医療のノウハウを組み込んでいくべき」(土屋氏)との声も上がった。

 一方で、病院側が安心して患者を預けることができる、緩和医療に通じた診療所の存在が欠かせないことも確認された。岡部氏はまず診療所こそ、力をつけるべきとの考えを示した。「きちんと力がある受け皿が必要で、ネットワークの構築はその後」と語っている。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日経メディカル Cancer Review

この記事を読んでいる人におすすめ